わたしはあなたを、忘れない
「今日は遠足の班決めするぞー」
季節は秋、11月。
私の高校は、春と秋に遠足がある。
3年生にある修学旅行は、
春の遠足の代わり。
2年生の今秋の遠足場所は、
バスで2時間の場所にある、
結構有名な温泉に1泊2日。
春には研修を兼ねて、
隣の県の郷土を調べたっけ。
「班決めと並行して席替えもするからなー」
ざわつく教室内。
席替えか。
誰と一緒になるんだろう。
みんながブーイングする中、
担任は構わず進めていく。
「出席番号順にクジ引きに来い」
言われた通り、番号順に
クジを引きに行く。
「10番か…」
手元のクジと黒板を照らし合わせ、
自分の場所を確認する。
引いた場所は、1番後ろの
窓側から2番目。
ラッキー、1番後ろじゃん。
誰かな、同じ班の人。
ウキウキしながら自分の机を
移動させる。
「結子、いい場所じゃん」
「でしょー」
みんなと会話を交わしながら、
やっとの思いで新しい場所に移動。
隣に机を置く音がして、
隣を見てみると。
そこにいたのは、クラスで1番地味で、
まじめで勉強命の、ガリ勉池上くん。
左前には空きの机が。
「ここ早瀬な」
「あ、はい」
早瀬さんは不登校気味の女の子。
あまり来てないから、
どんな子かは分からない。
待って待って。
池上くんと、早瀬さんと。
あと1人…なんだけど。
誰となるんだろう。
そう考えていると。
目の前に大きな背中がやって来た。
私は目を見開かずにはいられなくて。
だって、そこに来たのは、
椎名くんだったから。
「じゃあ班ごとに、自由行動の行く場所決めろー」
担任の合図でみんな班ごとに
机を向かい合せる。
とりあえず私たちも合わせることに。
「…………」
どうしよう。
話し合いたいけど。
誰も話す人がいない。
「い…池上くん、どこか行きたい所ある?」
「ぼ、僕は…1人、行くから…」
あ、そうですか…。
思ってもみない応えに、
少し戸惑う。
「早瀬さん…はいないし、」
どうしよう。
そう思いながら椎名くんを
ちらっと見ると、
頬杖をついて目を瞑っていた。
「あの…椎名くんは…」
おどおど話しかけると、
瞑っていた目をぱちっと開けた。
私はそれに少し驚いて。
「あ…えっと…、私は別に、みんなの行きたい所で、いいんだけど…」
気を遣ったつもりだった。
池上くんも1人で行きたいって言うし、
早瀬さんもいないから聞けないし。
第一、椎名くんも行きたい所あると思うから、
私の行きたい所聞いたって、
嬉しくもないと思ったし。
だけど。
「そういう女、まじで大嫌い」
そう言い残して、
授業の終わりと同時に
教室を出て行ってしまった。
私は愕然とした。
…大嫌い。
そんなこと初めて言われた。
椎名くんは私を好きじゃない。
それは分かってた。
だけど、嫌いだと知ることが、
こんなに辛いことなんだって。
今初めて知った。
痛い。
苦しい。
言いようのない思いを、
押し殺すので必死だ。