幼なじみの溺愛が危険すぎる。(後編)
「なんでそんなに嬉しそうなんだよ。

人が真剣に相談してるのに」



「ふふっ、なんでもない。

でも、すごく嬉しいのよ。

だって、おかあさん、りりちゃんのこと大好きだもん」



りり花のことなら、俺の方が好きに決まってる。


なんてさすがに母さんの前では言えないけど……



「玲音、りりちゃんの様子がおかしくても優しくしてあげるのよ?

りりちゃんの気持ちを一番に考えてあげてね」



「りり花の気持ち?」



ニコニコと楽しそうに笑っている母さんに返事をすることができなかった。





りり花の気持ちなら、ずっと前からわかってる…






病室をあとにしてマンション近くのバス停で降りると、りり花とよく遊んだ公園まで足をのばした。


誰もいない公園のジャングルジムに登り
ぼんやりとりり花のことを考える。



「りり花の気持ちか…」


ポツリと呟いた言葉は暗闇に紛れて消えた。


りり花と離れたくなくて、りり花を独占することばかり考えてきた。


ワガママを言えば、りり花はいつでも受け入れてくれたから


他の誰かにりり花の隣をゆずるなんて考えたこともなかった。



でも、それじゃあ、りり花の気持ちは…?



このジャングルジムのうえでキスをしようとしたあの時の

下を向いてしまったりり花の困ったような悲しそうな表情がよみがえる。


"りり花の気持ちを考えてあげて…"


母さんの言葉が何度も頭のなかで繰り返される。


いつもいつも俺のことを一番に考えてくれたりり花の気持ちを、

今までちゃんと考えたことはなかった。


いや、ちがう…


本当はわかっていたのに、ずっと気がつかないふりをしてきた。



りり花はいつも顔を輝かせて颯大のことを話す。


"すごい、すごい"と颯大のことを話すりり花は本当に嬉しそうだった。


りり花は颯大を見るようには、俺のことを見てはくれない。


それが分かっていたから、なおさら颯大にりり花を近づけたくなかった。



"りりかを困らせるつもりはない"と穏やかに笑っていた颯大の姿が思い出される。




悔しいけれど、


俺は…


颯大にはなにひとつ敵わない…









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