眠れぬ夜をあなたと
茶封筒をさし出すと、成本さんは慇懃に頭を下げた。

「拝見します」と茶封筒の中身を手にして、彼は再び目線を下にする。

ひまになった私は、原稿に目を通しながら煙を吐き出す成本さんを横目に、冷めたコーヒーをちびちび飲み込んだ。

このテの原稿を読まれている時間は、いつだって手持ち無沙汰で慣れることがない。まるで自分の脳みそをダイレクトに覗かれている気がして、何となくいたたまれない気分になるのだ。


だから嫌なんだよね、じかに会って渡すのとかさ。


成本さんが待っていたときと同じように、景色の一部になっている喫茶店の通りを歩く人達を、なんの気なしに見詰めた。

昼をだいぶ過ぎたこの時間帯でも、オフィス街と大学のキャンパスが多く点在するエリアだからか、スマホに何かを語り掛けながら足早に通り過ぎるサラリーマンや、賑やかに歩いている学生系の子が多く見うけられる。



『皆がんばって生きてるって感じ、かなぁ。でもこっちの人って、歩くスピードが速いよね』

この間のケイが語っていた言葉を、ふと思い出す。

『どんな人でもさ、ひとりひとりにドラマがあるって思うと、考えるだけで楽しいんだ』


ドラマなんて、人生をすべてハッピーに思えちゃうあたりが若い証拠なのか。
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