眠れぬ夜をあなたと
あのころ、おそらく一番身近な存在、だったと思う。
……その気持ちを勘違いするくらいには。

大きな恋を失ったばかりの私は、寄りかかり合える存在を手に入れられそうなことが、うれしかっただけかもしれない。そして他のだれかに対して、まだ優しい気持ちになれる自分に、ほっとしたのだ。

でも急速に芽生えた関係は、終わりも簡単だった。

私が編集長の命をうけていたと、お喋りな先輩社員がポロリと言葉を漏らしたのだ。

そのことを知った瞬間、スッとブラインドを下げるかのように、成本さんは顔色を消した。

彼の高いプライドをいたく刺激してしまった、とその瞬間悟ったけれど、手遅れだった。

彼は私にひと言だけ『編集長にシモの世話まで頼まれたのか』と罵った。そして、それ以降は礼儀正しく私を視界からデリートした。

この気まずさだけが残った昔を思い出せば、成本さんから私に仕事が割り振られる日なんて、未来永劫ないだろうと思っていた。

どのみち眼鏡の後ろに隠された鋭い瞳は、もう何も語らないけれど。



「……実は今度『女性のための夜街ガイド』という特集記事の企画担当をすることになりましてね。それで今日は蓮田さんに、お声掛けしようかなと。……いかがですか」

「それって店の紹介記事ってことです?」

「ホストクラブやボーイズバーにはまる女性も多いらしいので、そうですね……取材も、蓮田さんなら問題ないでしょうから」

私は返事の代わりに肩を竦めた。
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