眠れぬ夜をあなたと
***
「……何してんの」

「あ、お帰りなさい」

ジーンズに包まれた長い足を投げ出して玄関の扉に寄りかかって座るケイは、私を見上げると屈託のない笑みを浮かべた。

よっこいせ、と若者らしくないかけ声で、重そうなトートバックを持ち上げながら立ち上がる。ケイは、どのくらいここに座っていたのだろう。そうとう体が固まっているらしく、肩をぐりぐり回し始めた。

終電間近の、こんな時間まで待ってるなんて。


「あれ? 美湖さん、お酒飲んで来た?」

ケイは私の髪のあたりの空気を吸い込んで、小首を傾げた。

成本さんの仕事を引き受けたその足で、めぼしい店のチェックをしていた私。飲んでるのは純然たる仕事で、本来ケイに後ろめたさを感じる必要はない。

それなのに小さな舌打ちがつい、口をつく。


「今日。お店じゃないでしょ?」

「えっと、授業でね、映画史のレポート書かなくちゃいけなくて。美湖さんのところなら沢山映画あるから、さ」

……私のところで課題を仕上げるつもりなんて、良い度胸してるじゃない。


能天気な突然の来訪者にいらだちを覚えた。


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