眠れぬ夜をあなたと
私の問うた声がとがっていることに気づいたケイは、迷惑だった? と小さくうなだれる。

そのしおれた仕草一つで、もう仕方ないなぁ、なんて思わせる魔力を持っているのだから、厄介な子だ。

そのくせ私がドアのキーを解除した途端に、彼はうやうやしく扉を開ける。それから、お入りくださいと言わんばかりに、みごとな下僕振りを発揮した。


まったく……。そのかわいさ、自覚してるんだろうけど。

ため息を一つ吐いて、さんざん足を酷使した高いヒールのパンプスを脱ぎ捨てた。

「ケイがお茶を入れるヒトね」

玄関先でスニーカーを脱ぐケイへ、振り向きもせずに告げる。「はーい」と曇りのない、うれしそうな声が返って来て、私の毒気はすっかりと抜かれてしまったのだった。




映画が始まってすでに1時間半。
テレビの前の床に胡坐をかいたまま微動だにしなくなったケイの後頭部を、少し離れたベッドに座って眺める。

ケイは集中すると、周りの音が気にならなくなるタイプらしい。

それならば丁度いいと私も自分の仕事をするべく、ベッドの前にワゴンテーブルを持ってきた。成本さんにメールするための店のリストや選定理由をパソコンに打ち込んでいるのだ。

それにしても。こういうのも、観察されてるってことなんだろうなぁ。

ケイが入れてくれたお茶は、モノグサな私用にあえて大きなマグカップ。カップの中味は、私の好きなアールグレイのミルクティーで、その上、疲れた時の砂糖たっぷりバージョンだった。


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