眠れぬ夜をあなたと
帰って来たときの私は、確かに疲れていたし不機嫌だった。

東京にある膨大なお店から、ここぞと思える店を探す作業は骨が折れる。けれど、普段から店の種類に関わらず、新規店舗や評判の店は押さえるように心掛けて、それなりの下地は持っているつもりだ。
だから今日だって、地下鉄を乗り継いでの移動は面倒だけれど、めぼしい店のクオリティを確かめて、何軒かの店をハシゴした。面白い記事になると思えばこんな下準備くらい、なんてことはない。

それなのに私の胸に残っていたのは、仕事への達成感でも充足感でもなく。

成本さんの深いため息だけだった。

私には関係ないと思いつつ、未だにどこか割り切れないでいる。


あの頃の、あれは恋愛にすら届かなかった。
愛とか恋とかきちんと見極める前に、他人の言葉で簡単にぽしゃってしまうような脆い気持ちで。

だからこそ、わだかまりだけが残ったのだろう。

過去の失敗を覗き込むと、いつだって苦いものがこみ上げて来る。




いつの間にか、テレビの画面すら素通りして別の世界に飛んでいる私を、じっとみつめるケイの瞳に気がついた。

「あ。……終わったね」

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