眠れぬ夜をあなたと
act.3 嫌いなら、そう言えばいい
act.3 嫌いなら、そう言えばいい

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叔父のオフィスは『クラブ・セレナーデ』を構えているビルの3階にあった。

大通りから一本はずれたこの区域は、建屋の高さ制限があるため、似たり寄ったりの規模のビルがたち並んでいる。けれど緩やかな曲線の外観をしたこのビルは、どこか優美で叔父のこだわりが随所にみられた。

私はライトアップされたセレナーデの入口とは反対側の、やや奥まった場所にあるセキュリティゲートの暗証番号を押した。そのゲートをくぐり、頑丈そうなドアの隣にあるカードリーダにカードキーを差し込んで、重い扉を引く。

この建物に不似合いなほどゴツいドアの内側には、リゾートホテルのロビーを小さくしたような景観がひろがっていて、オレンジ色の温かな灯りが私を出迎えてくれた。

石畳風の床にはだれが手入れをしているのかと思うほど、大きなソテツの鉢植えが3つ並んでいて、脇には革張りの白いソファがコの字に置かれている。

そこを通り抜けてさらに進むと、ようやくエレベーターにたどり着く。このエレベーターは暗証番号と静脈認証システムを使用した3階への直通エレベーターだ。

開けゴマ、開けゴマ、と口の中で7回唱えたころ、エレベーターはやって来た。

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