眠れぬ夜をあなたと
……でも、三回戦とも負けるなんて、一生の不覚。っていうか、強いなら強いって言ってほしかった。

ケイに完膚なきほど叩きのめされた私は、この乗りやすい性格を後悔することになり、今日に至ったのだ。


「あ。やっぱり美湖さんて魔女だったってこと?」

やっぱり魔女って、なに。

「そこじゃない。ここの店で仕事するときは、こんな風に化けてんの」

「……ここの店長さんなのは知ってたもん、秘密じゃないじゃ~ん」

憎まれっ子みたいな口を利くわりに、ケイは長机をふたつくっつけて並べただけの簡素な事務所を、物珍しそうに見回した。

事務所の隅に追いやられている机の上には、デスクトップ型のパソコンがこじんまりと置かれている。パイプ椅子は四客あれど、すべてが埋まることなんて滅多にないような、なんの変哲もない小さな事務所だ。

「あっそ」

「でも、その格好じゃ、美湖さんか分かんないね。確かにうまく化けてる」

「そうでしょう?」

今日の化粧はなかなかの自信作。だからこそ、ちょっと来てよ、と呼び出したのだ。

彼の言葉に少しばかり気をよくして、おとしたばかりのコーヒーをいれてあげた。

「……わ、美湖さんが優しい。コーヒーいれてくれるなんて、なんかヤバそう」

パイプ椅子ではなく長机に腰かけたケイは、たかがコーヒー一杯で蕩けるような笑顔をみせる。

普段の態度が偉そうなせいで、その辺の評価がよほど甘くなっているようだ。

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