眠れぬ夜をあなたと
「失礼な。ヤバいものなんてはいってないけど。はいったとしても煙草の灰くらいよ」

「そうじゃなくて、なんかこういうの……萌えるよね。男のロマンってやつかな」

黒いドレスの胸元のふちにはスパンコールが縫い付けてある。ケイはするりとそのスパンコールを撫でた。

「男のロマンとか、若いくせにわけの分からないこと言い出さないでよ」

ケイに嫌そうな顔をしてみせても、このメイク顔じゃ伝わらない。げんに私が入れたブラックのコーヒーを、嬉しそうな顔をして飲んでいる。

「あ、でも、爪だけはいつもの長さだね」

きっちり切りそろえた爪にも、血豆のような色合いのマニキュアを塗っている。けれど、さすがに付け爪はパソコンも打ちづらいし、商品の梱包をするにはあまりにも非効率的だった。

ケイは半分だけ飲んだコーヒーカップを置いて、私の爪先を自分の親指の腹で撫でた。

「長い爪は実用性に欠けるし。仕事できないのは困るでしょ」

「うん、いいね」

あまりのにやけ方に、思わず頬の緩みを引っ張ってやりたくなる。先ほどからなにかにつけて指で触って確かめられるのが、なんともくすぐったかった。

ケイが驚くのは予想済みでも、このデレ具合はなんていうか予想外。やっぱり、男の子なわけね。

「……もう着替えるからちょっと待ってって」

この格好で街を歩いて電車に乗るような、そんな気概は持っていない。

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