眠れぬ夜をあなたと
「うっ、痛っ。でもさ……こんなところに入れるなんて」

エッチなイメージを思い浮かべたらしいケイの笑みは、どことなく艶っぽい。

間違ってはいないのだ。

子供ならともかく、腿の内側なんて、それをみせるような間柄じゃなければ、目にするわけがない。

「見たんなら、もういいでしょ? その手、放してほしいんだけど」

「ね、なんでペガサスなの?」

タトゥーの話をしてよ、とケイはもう一度、私の腿の内側をじっくり検分し始める。

「……その時は格好いいと思ったから」

「ふ~ん。で、いつタトゥーなんて入れたの? どんな気分だった? 痛かった?」

好奇心に満ちたケイの、矢継ぎ早の質問に苦笑が漏れる。

「痛いは、痛かったよ。ことにここは、ね」

内腿の柔らかい部分にタトゥーを入れたときは、なんの後悔も迷いもなかった私。

それよりも、タトゥーを入れた私に苦い顔をした人の、面影を思い返す。俺の名前と同じ彫り物を入れるなんて、と戸惑いながらもそこに唇を落とした男のことを。

若い私は愚かで、永遠に残る傷痕を喜んで刻んだわけだけど。タトゥーが色褪せするように、過去の記憶も色が褪せていく。それでもこれを見るたびに、自分の愚かさだけは思い出せる。

「まぁ……若かったからね、私も」

「やだな、美湖さん。まだ二十代なのに」

「ケイみたいなワコウドに言われると、耳が痛いなぁ」

「このタトゥーって、秘密なの? でも、オーナーはやっぱり……知ってるに決まってるよね」

店で囁かれている私と叔父の噂を思い出したらしいケイは、口元をへの字に曲げた。

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