眠れぬ夜をあなたと
「……俺、美湖さんのことなんも知らないでしょ。ここの店長さんしてるっていうのも、たまたま先輩から聞いてただけでさ。……ライターの仕事してるのとか、全然教えてくれないんだもん。店の取材に来たのが美湖さんだったの、どんだけびっくりしたと思う? その上、いつもより笑ってた」

ケイは、少しだけ悔しそうに目を眇めた。

彼がこの間の取材のことを言っているのは分かったけれど、カメラマンを伴って、ICレコーダー片手に取材する私の姿は黒子(くろこ)みたいなものだと思う。黒子が欲しい情報を引き出すためには、それなりの愛想も必要なのだ。

「訊かれたら答えるけど。でも私の職業は関係ないでしょ」

私達の間では、と付け加えるのはあまりに冷たい言い草だろうか。

「……美湖さんには感謝してるよ、お店にいやすくなったのは。しつこいお姉さんに絡まれると前は冷たい目で見てた先輩達も、助けてくれるようになったしさ」

『オーナーの愛人のペット』的な扱いでも、それは意外と丁重らしい。店の子達も下手に弄って告げ口なんてされたら、得策ではないと電卓を叩いたはず。

狙いは外れていなかったと、私は心の中で安堵する。でも発した言葉とは裏腹に、ケイの瞳はすねたままだった。

「ね、もっとちゃんと教えてよ、美湖さんのこと。……美湖さんの口から聞きたいんだ」

他の人じゃなくて、と囁くケイの様子で私は確信を持った。

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