眠れぬ夜をあなたと
ははは、こき下ろしてたのか。

で、一緒に来た人って、デフォルト値が強面の成本さん辺りなのだろうか。……志垣さんも相変わらず趣味が悪い。

「はぁ。……ま、いいか」

「全然よくないよっ。なにも聞かないの? 他人に自分のこと悪く言われてるのに、気にならないの? でも……ごめん、美湖さん。本当は昔の話、少しだけ聞いちゃったんだ。子役の時の話とか」

聞いちゃったと言うよりも、聞かされちゃったのだろう。

彼は痛そうな顔をして私から視線をはずす。

「ん~。たいした秘密でもないんけどね、パッとしなかったってだけの話で。結局、子役からうまくシフトできなかったから」

私はケイに笑ってみせる。すでに人生を一度、しくじったことのある私自身を。


子役は売れているそのときがピークで、年を重ねていくごとに、賞味期限間際の食料品みたいな扱いに変わっていく。

それでも子役時代に見出したあざとさで世の中を上手く渡り切り、生き残れるひともいる。いわゆる演技派や個性派と言われる部類の人間だった。

本来ならば自然と消える程度の私がなかなかそうならなかったのは、ひとえに所属事務所の経営者が母方の親戚筋だったからだ。

そんな大人の事情に流されて、十代の大半を過ごしていた。自分に疑問を持ちながらも、子供でもなく大人にもなれなかったあの頃、私はいろいろなひとに迷惑をかけた。

志垣さんも間接的にではあるけれど、迷惑をかけてしまったひとりだったのだ。迷惑をかけて、傷つけて。それすら気づかないでいた。その事実に気づいてからは、厭(いと)われるのも仕方のないことだと諦めている。
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