眠れぬ夜をあなたと
ケイがバイトを辞めれば、この変わった関係も終わる。ギブ アンド テイクが成立しないのなら、一緒にいる理由もなくなる。ないはずだ。

「言ってよ。今まで通り、一緒にいていいって。そしたら俺、美湖さんのとこ、いつでも行くよ?」

「馬鹿だね、ケイ君。そんな時間がなくなるから、バイト辞めるんでしょうに」

まっすぐな瞳は、軽く笑った私を睨みつける。

……可愛い顔して、本気で言ってるんだ。

ケイの目の奥にある熱の強さに気づいた。

「女王様が必要なくなれば、お役ごめんよ」

「お役ごめんなのは俺のほうでしょ? 美湖さんがオーナーに頼まれて、面倒をみてくれてたのは分かってたんだ。それでも……他の誰かがあなたの抱き枕になるの、嫌だ」

意識のあるときに施された初めてのキスは、指先へ落とされた。ケイの蒸気した吐息が、指から心臓へダイレクトに伝わって、体が震える。

俺を受け入れて、と彼の唇が動いた。

女王様ごっこからはじまった、ケイとの関係だ。でも一緒に過ごすときのが、いつの間にか極上の癒やしの時間となっていた。

その時間を、志垣さんの思惑通りに失えば、彼の心の澱みは浄化されるのだろうか。

「美湖さん」

思考の渦に埋もれた私の名前を、呼ぶ声がする。

彼の手を握り返す勇気もないくせに、さりとて振りほどくこともできずにいる私は、石膏のように固まったままだった。


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