眠れぬ夜をあなたと
根が善人なくせに少しばかり悪ぶる叔父は、面と向かって感謝されるのが苦手な足長おじさんみたいで、ちょっと笑える。

私には『雅樹さん』と名前を呼ばせ、まことしやかに囁かれている噂を楽しむ変わり者の叔父は、世間では年齢不詳の人だ。本人は『オジサン』と呼ばれる生活臭を嫌っている。

私達の親密度を勝手に誤解した店の従業員の間では、いつの間にか私は『オーナーの愛人』にされていたのだから、人の噂なんてあてにならない。

そのせいか叔父は皆の勘違いを逆手にとって、わざとらしいくらいの溺愛的な態度を私に向けた挙句、口をつぐんだままにしている。

我が叔父ながら、まったくをもって粋狂な人だ。

その誤解からの副産物で遠慮もせずに店へ通って、高い酒をいただく私も私なのだけれど。



ものぐさな私が考えた、ケイに助け舟を出す一番手っ取り早い方法。それは、ギブ アンド テイクの関係を押しきることだった。

こんなことを普通の客がやったとしたら、空気の読めない失笑ものの見世物だ。でもそれが『オーナーの愛人の気まぐれ』ならば可能なこと。

私は皆の前で『ケイが欲しい』と、ふてぶてしく宣言した。

女王様を装って、権力を笠に着た私が足のこうにキスを要求したとき、フリーズしたのはケイではなくて、店のマネージャーである橋本さんだった。めったにお目にかかれないような橋本さんのあっけにとられた顔が、至極愉快だったのは心の中だけでとめておこう。

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