眠れぬ夜をあなたと

「それじゃ、軽く乾杯しちゃいましょうか?」

津村君がニコッと笑うと、緊張ぎみな女性たちは少し頬を緩めて、シャンパンの注がれたグラスに手を伸ばす。私もそれにならってグラスを持ち上げた。

「皆さんのご健康とご多幸を願って、かんぱーい」

……ご健康とご多幸って。
そんなの年賀状の文言以外に普段言ったことないわ、と口元に苦笑が浮かんでしまう。結局、乾杯の音頭を復唱しそびれた。

「それにしても、皆さん今日はお集まりくださいまして、ありがとうございます。こんな綺麗な方たちとお話しできるなんて、うれしいです。ぼくっいえ、私は『マーレ』編集部の津村です」

津村君は多少の緊張を残しつつも笑みを絶やさず、私を含めた六人の女性ひとりひとりの顔をまんべんなく眺めた。

彼は格好良いというよりも可愛いに部類分けされるタイプの人間だ。以前、編集部で戸倉さんに紹介されたときも、編集者というよりは細身のスーツを着こなした元気な男の子といった印象だった。それは、一年経った今でもまったく変わらない。

その津村君の対角線上の席には、契約カメラマンの保科さんが座っている。津村君のフレッシュなニコニコ顔に対し、保科さんは置物のように無表情だ。

彼は風景が専門のカメラマンだが、それだけでは生活が成り立たず雑誌の仕事も引き受けている、と数時間前の雑談の中で戸倉さんに教えられた。

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