眠れぬ夜をあなたと

「……早く大人になりたいな。こういうの作る勉強のために学校行ってるのに……時間がなくて映画の一本も見れないなんてさ、俺ってかなり本末転倒ってヤツだ」

鼻先を私の肩口に擦りつけて、珍しく弱音っぽいことを口にする。

その小動物みたいな姿がかわいらしくて、ケイの柔らかな髪をポムと撫でた。


……大人になりたい、か。

久しく忘れていたような、甘くて苦い感情が胸の中に流れ込んだ。


「でも君は、いろいろな人、観察するの好きじゃない? いっつも、楽しんでるみたいに見えるんだけど」

ケイはセレナーデの従業員やお客のことを、人間ウォッチしている。それはとても楽しそうに。

私のことだって『変な女』と、彼の頭のメモ帳にはメモられていたりして。

「……他人の作り物なんて、見ても見なくても関係なくない? 日常のが面白そうなネタが転がってるじゃない」

いつか、このリアルを糧にするときが来るかもしれない。

ケイは慰めにならないような言葉でも、うれしそうに頷いた。

「まぁ、いいや。好きなの見たかったら変えてよ。これ…夕べから入れっぱなしになってたディスクだから」



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