眠れぬ夜をあなたと
「いいの!? ありがと……美湖さん」

ケイはにっこりと笑って立ち上がると、ディスクの大量に詰まったラックの前で立ちつくす。その姿は、お菓子売り場にたたずむ子供みたい。

さんざん迷ったケイは、ディスクを昔のフランス映画に変えた。



「ところで美湖さんさ、ちゃんと寝てる?」

映画が始まってだいぶ時間がすぎたころ、それまで無言だったケイが私の背中に話し掛ける。

低くて心地の良い女優の囁きと、ケイの鼓動が頭のなかで呼応して、その音に安堵した。

映画だけでは夜は長くて足りなくて。

「……今、眠れそ」

同じベッドで、一緒に眠る。ただ眠る。

それだけの関係なのに、一番の心地の良い時間なのだ。

「そうじゃなくてさ、ほかの日に……」


ふふふ。
……勘違い客の気持ちってこんな感じなのか。

自分の来ない日を心配してくれているのか、振り返ってみると、言い淀むケイの眼差しが思案気に揺れた。


長い睫毛に触れてみたいとぼんやり考えながら、その手は枕の下へ差し入れた。

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