拝啓
私は男の子の後を少し距離を置きながら歩いて頭の中を必死で整理していた。
凄い偶然だ。
どうしよう…。私どうしよう…。
耳元でシャリーンとピアスの心地好い音色が鳴った。
母が好きだったガムランボールのピアスだ。
母が私の最後に祝ってくれた誕生日のプレゼントだった。
この音色が鳴ると不思議と落ち着く。
ピアスのサイズなので小さく首を振らなければ滅多に鳴ることは無い筈なのに、鈴が鳴った。
私は男の子について行く覚悟を決めた。なるようになるし、【アテイ君】から母の話を何かしら聞けるかもしれない。
私の足取りは確りと踏み締めて付いていった。
河の土手を降りて細い道を進んで3分程で一軒の家の前に着いた。
男の子は振り返り私を見て悪戯っぽく言った。
『ここが俺んち。親父が結婚するまではこの家の近くの親父の実家があるんだ。』
男の子は玄関の扉を開けながら『ただいま~!親父居る~?』
私は玄関の外に立っていた。
すると奥から女の人の声が聞こえた。
『俊一?お帰り。お父さん煙草買いに行っただけだから直ぐ帰ってくるわよ。どうしたの?』
俊一って言うのかこの子…。
ん?小山…小山…淳!!
『小山淳だ!!』私は思わず思い出した名前を大きな声で言ってしまった。
俊一は振り返り笑いながら言った。
『親父の名前、思い出したんだ。』
家の奥から足音が近付いてきた。