拝啓
『あの……どちら様でしょうか?』
可愛らしい中年の女性が少し警戒しながら聞いてきた。
靴を脱いだ俊一がその女性の肩をポンと叩き私を見ながら女性の問いかけに代わりに答えた。
『親父に用事があるんだって。家が分からなかったみたいだから俺が案内したんだよ。』
そう言うと私に向かって女性を紹介した。
『この人、俺のお袋。血は繋がって無いけど、良い人だよ。もしかしたら、オネーサンの母親の事知ってるかもね。親父んち仲間の溜まり場だったって聞いてたし、そんときの彼女がお袋だから。』
そう言うと階段を上がって言ってしまった。
女性は俊一が上がった階段を見た後私に向き直り、ゆっくりと問いかけた。
『あの…。お名前は何て仰るの?』
私は慌てて答えた。
『スミマセン。私、高城 彩佳の娘で華澄と言います。母の事でちょっとお聞きしたいことがありまして、偶然息子さんにお会いしまして、お宅を案内して頂きました。』
女性は驚いた顔になり言った。
『えっ!!彩の娘なの?』
私は女性に歩み寄った。
『母を御存知ですね。御願いします。私に母の事を教えてください。』
私はその言葉の後で驚いている女性に付け加えた。
『私の母は少し前に他界しました…。』
女性は小さな声で悲鳴を上げその場に座り込んでしまった。
突然、背後から男性の声がした。
『アンタ。ウチのカミさんに何したんだ?』
振り返ると、背の高いガッシリした男性が少し怒り気味に私を見ていた。
女性は男性に向かって震えた声で言った。
『彩が亡くなったんだって…。』
男性は目を丸くして私を押し退け女性の側に歩み寄り、女性の肩を両手で掴み、そして振り向いて静かに言った。
『それは本当か?』
私はコクりと頷いた。
男性は女性を抱き抱えながら私に向かって静かに言った。
『兎に角家に上がって。話をする前にカミさんを落ち着けたいから。』
私は頷いて玄関の扉を静かに閉めた。