拝啓
女性は呆然として旦那さんが両肩を確りとつかんで、宥めていたが、女性は泣き出してしまった。
私はどうして良いのか分からず、兎に角落ち着いて貰おうと、声をかけた。
『母は安らかに旅立ちました。母は生前1番自分が輝いていた時間はあなた方と過ごした時だと聞いています。
どうか、その頃の母の事を教えてください。
私に教えてください。』
私は頭を深々と下げた。
女性がゆっくり立ち上がり、旦那さんの腕を掴みながらヨロヨロと頭を下げている私に近付きソッと頭を撫でた。
私はその手があまりに優しくて涙が溢れてしまった。
女性は両手で私の頬を包み顔を上げさせて向き合って言った。
『彩はとても良い子だったよ。私達の知っていること全て話します。』そう言うと、旦那さんに顔を向けて言った。
『そうでしょ?淳。』
そう言われた男性は少し間を開けて、頷いた。
女性は私をリビングに招いてくれた。
こじんまりとしたリビングに家族の写真が飾られて、その中に二人の若い頃の写真もあった。
男性がバイクと一緒に写っている写真があった。
男性がその写真を持って座っている私に手渡しながら懐かしそうに言った。
『その写真、彩が撮ってくれたものなんだ。あの子は仲間内でも写真を沢山撮ってくれたよ。
皆とボーリングした時とか何気無い仲間が集まったときにも写真を撮ってた。』
私は手渡された写真をずっと見つめながら話を聞いていた。
母は何故そんなに写真を撮りたがったのだろうか?
自分自身は写真を撮られることを嫌がって、遺影にする写真を探すのに苦労するくらいだった。
女性が口を開いた。
『私は彩が結婚してからも交流が少しあったのよ。』
私は驚いた。
母は最初の結婚期間をあまり口にしなかった。
祖母から聞かされてはいたが、幸せでは無かった結婚生活だったらしい。
その間、仲間にはそんな姿を見られたくなくて、一切連絡していなかったと思っていたから…。
思わず女性に詰め寄り質問した。
『その時の事聞かせて貰えますか?』
女性は横に座っている男性に声をかけた。
『淳。悪いんだけど、席を外して欲しいの。お願い。』
男性はコクンと頷くとスッと立ち上がりリビングから出て階段を上がって行った。
女性はその足音を聞いて確かめてから私に話始めた。