拝啓

『俺は後にも先にも、あそこでバイトをしていた時が1番楽しかった。皆も同じじゃなかったかな…。バイトが辛いと感じたことは1度もなかったからね。
彩は徹と仲が良くてね。兄妹みたいにじゃれあってたよ。
徹は複雑な家庭だったから、無邪気に懐く彩を可愛がってたな…。そこに俺と冬也が加わった。
その頃、俺の家は門限とか無かったし、皆自由に出入りしてた。
彩も出入りするようになって、バイクを弄ってるのを楽しそうに眺めたり、くだらない話で盛り上がったりしてた…。

彩は何時も、楽しそうに話を聞いてた。彩んちは厳しくて、門限があったんじゃなかったかな…。それでも、制服のまま来たりして、智恵美と一緒に河に行ったりしてたよ。』


そう言うと、黙って私を見て言った。
『あんなに小さな赤ん坊がこんなに大っきくなったなんてな…。
俺も君に会ってるんだよ…。
彩が1度泣きながら、俺の家に電話をしてきた。
俺は会いに行って、話を聞いたことがある。君には辛い話になると思うけれど、聞いていられるかい?』


私は大きく頷いた。


男性は大きな溜め息をついて、静かに話始めた。

『辛い。って…。結婚生活が辛いってポロポロ涙を流して言ったんだ。でも、俺は話を聞くぐらいしか出来なかった。
それから、暫くたって又俺の家に電話があったんだ。でも、その時俺のお袋が電話に出てね、彩にこう言ったんだ。

【淳はもう結婚したから電話をしてこないで欲しい】って…。彩からはそれ以降連絡は無い。その後、俺は離婚して、再婚したんだ。
彩がどんな結婚生活を送っていたのか、知ってたら、教えて欲しい。』


私は母から聞かされた話をした。


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