拝啓

『母の結婚生活は初日から悲惨だったそうです。
結婚当日から新郎は夜遊びに出掛け帰ってきませんでした。
母はその時私を身籠っていました。
悪阻が酷く臨月まであったそうです。
義両親に逆らうことは無く、産院も義両親に言われるまま、遠い産院で出産したそうです。
独りで出産して、そのまま疲れ果てて目覚めたときは真夜中で、独りぼっちで私が居た部屋にガラス越しに私を見てたそうです。
その人は、仕事も辞めて、転々と職を変えて、悪い仲間と飲み歩き、飲み屋の女性にはまり、借金し回って、その日食べるのさえ無かったらしいです。』


二人は私の話を青ざめた顔で聞いていた。

『あの………。話続けても、大丈夫ですか?』


二人はお互い手を握り合い同時に頷いた。
私は話を続けた。

『それでも、母は昼間も夜も働いて家計を助けていましたが、どうにか離婚は思い止まっていたそうですが、ある日大喧嘩をし、相手が寝ている私を投げ飛ばしたのを見て、離婚を決心して、家を出ました。
恐らく、離婚前に淳さんに連絡をしたのはその頃だと思います。


家を出た母はたった1週間で全ての離婚手続きを終えて晴れてシングルマザーになりましたが、数年が経った頃、生活のため職業訓練校に入り、今の父に出会って結婚しました。
母は再婚は考えていたかったらしいですが、今の父がとても良い人で母はやっと心が休まる日々を送っていました。
しかし、その幸せより母は【冬也】さんの事を忘れてはいませんでした。
そんな母をはじめ私は少し嫌いでした…。』



そこまで話すと、二人は同時に同じことを言った。

『それは違う。』

私は驚いて二人を見た。
二人はお互い顔を見つめあって、女の人が頷いて私に顔を向けて言葉を続けた。



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