拝啓
駅近くまで来るとネオンが輝いて雑踏の中再び男性は私に話しかけた。
『本当は彩の事を徹から聞かせたかったけれど、今連絡つかなくてね。』
【徹】
私は朧気に母から話は聞いていた。
そして、連絡がつかなくて心配していた。
『そうですか。母はその徹さんと仰る人の事もとても心配していました。残念です。』
男性は淋しそうに呟いた。
『彩は今でも冬也を好きだったのかな?』
私は感情のない声で答えた。
『はい。母は亡くなるまで冬也さんに恋をしていました。』
私の答えに、男性は目を伏せて黙ったままその場で立っていた。
私はペコリとお辞儀をしてその場を立ち去った。
電車に乗り河の土手に差し掛かると、さっきの男の子が土手に座って河を眺めていた。
私はその姿を母に重ねて見た。
母は何を考えて河を眺めていたんだろう。
好きな人以外の人に口吻されて、しかも、その人は自分が大切にしてきた仲間だった…。
単純に悲しかったのかな…。
いや、母はもっと何かを抱えていたんだろうな…。
必死で守ろうとしたんだろうな…。
でも、母は何故そこまで仲間を守ろうとしていたんだろう?
疑問だけが私の頭の中をグルグルと螺旋を描いて、そんな私を電車は河を渡って走って行った。