拝啓
手紙はここで止まっていた。
この手紙を書いたのは数日前亡くなった母の遺品整理していて見つけたのだ。
とても、大切に、そして密やかにしまわれていた。
母が大切な物を入れていた箱の底にしまわれていた。
母は晩年夢の中の住人になっていて、亡くなるまでずっと病院のベッドから外を眺めていた。
私や父が見舞いに来ても、視線は窓の外に向けられていた…。
気分が良いと歌を歌っていた。
その歌は愛を綴った歌だった。
母はまだ、病気が悪化する前、父に内緒で私に頼み事をした。
『華澄(かすみ)にお願いがあるの。私が動けるようになったら、一緒に行って欲しい所があるの。良いかな?』
私と母はとても仲が良かった。私は自分の恋愛で悩んでいたとき、母は私を一人の女性として話を聞き、相談に乗ってくれた。
親子と言うより親友みたいな関係だった。
だから、母からこの手紙の宛先の人物も名前は聞いていたのだ。
その人の話をするときの母はとても輝いていた。
その母の頼み事は叶えられなかった。
その人の話をするとき必ず母は私に言った。
『華澄は赤ちゃんの頃その人に会ってるのよ。』と…。
私は手紙から視線を外に向けた。
もう日が沈みかけていた。
私は立ち上がり、その箱を父に見られないようにして、部屋から出て父のところに行った。
父は母の遺骨が入った箱の前にずっと座って遺影をみつめていた。
そんな父に母の宝箱を見せれない。
私はそっと父に声をかけた。