拝啓
『前に俺は彩に聞いたことがあるんだ。お前ら二人は何時も連んでるよな~。ってすると彩が智恵美が席を立ったとき答えたんだ。【私、智恵美が好きだから、淋しがり屋の智恵美をほっとけないし、私は智恵美が好きだからね。】って彩は屈託の無い笑顔で答えたんだ。
あの二人はあまり話をしないときもあればずっと喋ってるときもあるし、性格も考えも正反対で対照的だった。もしかしたら、対照的だから連めたのかもしれない。』
奥さんがアテイ君の言葉に付け足すように言った。
『私は1度智恵美と連むのを止めさせようとしたの。
そしたら、彩は智恵美をほっとけないと繰り返し答えていた。
智恵美を守ることで冬也さんを守っていたのかもしれない…。』
私は愕然とした。
母は偽善ではなく、本当に心から智恵美さんが好きだったんだ。
そして、彼女が淋しがり屋だから、ずっと側に居ることで、他の男性に付いていってしまう事を阻止し、冬也さんを傷付けないように二人を守っていたんだ…。
そしたら…。母は?
母の気持ちは?
絶対報われない。それでも良いと?
そんなの母があんまり可哀想じゃない!!
私は二人に向かって溢れ出す涙を拭いながら問い掛けた。
『それじゃ母があまりにも不幸です…。』
奥さんが俯きながら静かに口を開いた。
『貴女の言う通りだと私は思うわ。いいえ、誰もがそう思うわ。
彩の気持ちは決して報われない。
それでも、彩は必死で二人の仲を保とうとした。でも、冬也さんだって馬鹿じゃない。
智恵美のあの行動は冬也さんの耳に入った筈。
二人の仲は破綻した。それから後の事は私達は知らないの。肝心な事を知らなくてごめんなさい。』
私は声を出して泣き出してしまった。
あんまりだ。
必死で二人を守ろうとした母。
自分の想いより大切にしていたのに。
しかも、智恵美さんはそんな母の直向きな想いまで引き裂いた。
それでも、許せる母を私は理解できなかった。
それが、切なくて、悔しくて、悲しくて、そんなに想われている二人と母の中に絶対に入り込めない自分が惨めで幼子のように泣きじゃくってしまった。
アテイ君と奥さんが私を宥めてくれた。
『彩の様な愛し方をする人なんてそうそう居ない。否出来る筈がない。
それをしていたから、彩は誰よりも愛して欲しかったのかもしれない。』
私は顔を上げてアテイ君に言った。
『私の今の父は母をとても愛しています。母と父は私の理想の二人なんです。なのに、母はそれよりも冬也さんを想っている。
父が可哀想です!』
すると、今度は奥さんが私に語りかけるように言った。
『彩は今の旦那さんも愛していたと思うわ。それは私が断言できる。彩はそんな軽い想いで人を愛さない。智恵美とは正反対だと言ったでしょ?
それに、貴女の事も愛していたわ。だから、貴女を対等の人として話をしてきたと思うわ。そうだったでしょ?』
私は頷いた。
それを見て奥さんは再び語りかけた。
『彩は確かに冬也さんを想っていた。どんなに時が過ぎても変わること無く想い続けた。
でも、それは旦那さんや貴女に向けた愛とは又違う意味だった。
それに、違う意味で、大切な存在だったと思う。
恋愛って、形が無いし沢山の意味があると思う。彩は旦那さんや貴女をちゃんと愛して大切にしていたと思う。』
私が聞きたかった言葉だった。
冬也さんに恋をしていた母は私達を愛していなかったかもしれないと思ったから…。
アテイ君が小さな溜め息をつきながらボソリと言った。
『俺達智恵美とはもう全く会っていなかった…。冬也はまだ繋がってたのかな?』
私は落ち着きを取り戻しつつ言った。
『実は母は冬也さんと連絡を取り合っていました。』
それを聞いた二人は驚いた顔をした。