拝啓
翌日、私は智恵美さんの住むアパートに行った。
私は父親と名乗る人を連れて来たことを許せなくて、それに何故そんなに母や私に酷いことをしたのか知りたかったから。
ドアをトントンと叩くと、ガチャリとドアが勢いよく開いた。
そこにはガッシリした男の人がドアを塞ぐように立っていた。
私は少し怯んだが真っ直ぐ見つめて言った。
『高城と申しますが、智恵美さんいらっしゃいますか?』
すると男性は部屋の中に向かって大きな声で智恵美さんを呼んだ。
『おい!お前に客だ。』
智恵美さんは寝起きの格好で玄関に来た。
『あぁ。アンタ…。何か用?』
私は感情を押し殺して冷静に言った。。
『話がしたくて来ました。お時間良いですか?お願いします。』
すると、智恵美さんは面倒臭そうにしていたが、近くのファミレスで待ってて。と言うとドアはバタンと閉まった。
私はそのファミレスで待つことにした。
30分位経った頃智恵美が店に入ってきた。
ザワザワした店内で私が立ち上がると智恵美さんは気付いてテーブルの向かい側の席に座ると煙草に火を付けた。
ウェイトレスがお冷やを持ってくると、ドリンクを注文した。
私は出来るだけ感情を出さずに話はじめた。
『何故突然父親を連れて来たんですか?』
智恵美さんは煙を吐き出しながら当然と言う様な口振りで答えた。
『アンタに会いたがってたから。連れていっただけ。』
私は身勝手過ぎる智恵美さんに少し苛立ち始めていたが、それを出さずに訴えた。
『私はあの人を父親と思ったことは1度もありませんし、あの人が死んでも私には関係ありません。私の父は今、母の遺骨の前に座っている人だけです。』
すると智恵美さんは横を向いて呟くように言った。
『アンタの父親は彩が他の人をずっと好きだった事を知りつつ結婚したんだよ。そして、その事でずっと苦しんでいた。
分かる?自分の女房が他の男に心を奪われていながらも結婚生活を送っていたこと。』
私は心の糸がプツンと切れた。
私は睨みながら圧し殺した声で智恵美さんに言葉を投げつけた。
『そうさせたのは貴女の方でしょ。
母は貴女の嘘に騙され、一生懸命冬也さんの思いを絶ち切ろうとした。
貴女はいったい母に何を言ったのですか?』
智恵美さんはフッと笑って答えた。
『冬也は彩が嫌いだって、ハッキリ言ったわ。そしたら、あの子そうなんだ…。と一言だけ言ったわよ。』
私は愕然とした。母は智恵美さんの嘘にまんまと騙され、懸命に耐えたんだ。
ずっと、ずっと想っていた人の大切な気持ちをこの人は知ってて踏みにじったんだ…。
私は悔しくて涙が溢れそうになったが、この人の前では泣きたくなかったので、耐えた。
きっと母も泣くのを我慢していたんだと思った。
私は智恵美さんに問いかけた。