拝啓

『ねぇ。アンタ。
実の父親とは会いたくないのは本心から?』


智恵美さんの突然の質問に私は驚いた。
この人は何故そんなに私とあんな人を会わせたがるのか?
私は智恵美さんの目を見て、ハッキリ言った。

『はい。本心から言ってます。私はあの人に投げ飛ばされた事、ちゃんと覚えているんです。
あの人が貴女に何て言ったかは知りませんが、あの人が母にした仕打ちもちゃんと覚えているんです。
母は確かに冬也さんに恋をしていましたが、母なりに必死で結婚生活を送ろうとしていた筈です。
でも、冬也さんにだけは悲惨な結婚生活を知られたくなかった。
冬也さんは幸せでいると信じて、自分も頑張ろうと必死で家庭を守っていた。それを
壊したのはあの人ですから。』


智恵美さんは灰皿に煙草の灰を落としながら言った。

『アタシはアンタの父親からしか話聞いてないから、会わせたら喜ぶと思ってたのよ。
ゴメンね。知らなかったのよ。』


私はフッと肩を落として言った。

『母の葬儀に来てくれた事。有り難う御座います。
でも、もう2度とあの人を私達の所に連れて来ないで下さい。
私の父は今の父だけですから。』


私は言い終わると、席を立ち、店の外に出た。
すると智恵美さんが走って店の外に出てきて私を引き止め言った。

『アタシだって、本当は彩の事大好きだった!それはホントだから!』


私は一言だけ言った。

『今の貴女を見たら、母はきっと悲しむと思いますよ。』


私は振り向かずその場を去った…。




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