拝啓
時計を見たら日付がかわりそうな時刻になっていた。
私は慌てて家に帰った。
母の遺骨がある部屋を見たら、宗ちゃんは居なくなっていたし、母の遺影も消えていた。
私は慌てて宗ちゃんと声をかけながら家中を捜した。
宗ちゃんのお気に入りの靴が玄関にあったから、きっと家の中に居る筈だ。
私はベランダに出た。
そこに椅子に腰かけて母の遺骨と遺影を置いて宗ちゃんが居た。
『何やってんの…?』
私は気が抜けてその場に座り込んでしまった。
宗ちゃんはキョトンとしながら答えた。
『嫁さんと月光浴だよ。嫁さん夜空が好きだったから…。今夜は月が綺麗だったから。華澄こそこんな時間まで何処行ってたんだ?』
私は座り込んだまま答えた。
『ちょっと私も月光浴してた…。』
すると宗ちゃんは折り畳みの椅子を出して私に手招きしながら言った。
『じゃあ。一緒に月でも見よう。』
母の遺骨と遺影を真ん中に3人並んで月を見上げた。
月は静かに照らしていた。
宗ちゃんは独り言のように話はじめた。
『嫁さんみたいな人はもう一生現れないんだろうなぁ…。あんなインパクトがある女の人なんて居ないからなぁ…。』
私はクスリと笑いながら言った。
『うん。あんなにチビなのに態度がでかくて厳つい人なんて居ないよね。』
宗ちゃんは思い出し笑いをしたみたいだった。私はキョトンとしていると、思い出した話を聞かせてくれた。
『そうそう。俺も初め嫁さんはでかいと思ってたんだよ。並んで歩いたら【チッサ!!】って思わず言っちゃったんだ。』
それを聞いて私も笑い出してしまった。
『本当にチビだったよね。私より小さくてさ。中学の時ママが学校に来たときプリプリ怒ってたのね。訳を聞いたら、みんなでかくて、自分が森の中のキノコみたいな気分だったって本気で怒ってた!』
宗ちゃんも声を出して笑った。
母が死んでから初めて笑った宗ちゃん…。
私は宗ちゃんに問いかけた。
『宗ちゃん…。ママの事好きだった?』
宗ちゃんは即答した。
『今でも変わらず好きだよ。と言うより嫁さんは生きてる…。何だろう?側に居る感じがするんだよ。俺は嫁さんみたいな能力は持ち合わせてはいない筈なんだけどね。』
私は恐る恐る宗ちゃんに聞いた。
『ねぇ。宗ちゃん。宗ちゃんは何でママの事好きになったの?』
宗ちゃんは月を見上げながら答えた。
『何だろうね…。自分でもよく分からないんだよ。気が付いたら好きになっていたんだ…。だから理由なんて分かんない。』
『そか………。』
私はそれしか言えなかった。
月は真上に差し掛かっていた。
宗ちゃんと私は各々母の事を思っていた。