拝啓

時には淋しそうに。
時には自分の事のように嬉しそうに。


時には助けを求めるモノだったり。


母の心の揺らめきが嘘偽り無く
綴られていたブログ……。

母のスマホを弄っていたら、知らないURLがあったので、クリックしてみると初めて見た母のもう1つのブログを見つけた。


私は初めから読んでみようと思い、一番最初のブログを読んだ。
ひっそりと、時には情熱的に綴られていた言葉たち…。
その殆どがおそらく冬也さんに充てられた言葉だと容易に分かった。


私は途中で読めなくなってしまった。母の綴った言葉があまりにも切なくて、耐えられなくなったから。


スマホを母の本棚の隙間に置いて部屋の真ん中に座り込んでしまった。
本棚にいっぱい積まれた本、棚に入りきれず積まれたDVD……。

本のインクの香りと母の好きだった香水の香り。
母の香りが色濃く残る部屋。
この部屋には宗ちゃんは絶対入らない。
母は自分以外の人が入ることを嫌がった。それは宗ちゃんも例外ではなかった。
それに今の宗ちゃんは母の部屋には入れと言われても入れないだろう。
ここは母の世界。
何人も犯すことが出来ない母の心の部屋を形にしたもの。

主の居なくなった部屋はそれでも主以外を寄せ付けたくない様に感じる。
母は明るくて、騒がしく、ノリの良い人と周囲は思った事だろう。実際そうだった。
でも、それは本当の姿じゃないことを私は知っている。

とても静かで、ベッドには常にお気に入りの本が置いてあり、音楽を流しながら本を読み耽っていた。

何かを見つめ続けている様な眼差し、どちらかと言うと人の話を聞く方が多かった。
いったい何人の人が本当の母を知っているのかな…。
もしかしたら、私の知っている母も本当の母の姿じゃないかもしれない。


冬也さんは母をどう思っていたのだろうか?
母は冬也さんにどんな姿を見せていたのだろうか?


私はそのまま部屋の真ん中で仰向けになった。
天井には母が自分で作った蛍光シールが貼られていた。夜電気を消すとそれらが光ってまるで星空の様に光るのだ。

母が自分の部屋を持ったらやりたかった事だと言っていた。
本当に月や星、風や海、自然が好きだった母。


母のアクセサリーが入った箱が目についた。私は起き上がり箱を手に取り蓋を開けた。
沢山の指輪やブレスレット、母と宗ちゃんのペアリングも入っていた。
宗ちゃんがうっかり海に落としてしまい、1年後同じ海で再び宗ちゃんの所に戻ってきたリング。


宝石箱の蓋の内側に極彩色の何処かの異国の写真が貼られていた。写真の裏に【バリ島】と手書きで書かれていた。
バリ島の写真だ。母は行ったこともない国なのに澄んだ海が好きで、母はバリ島が好きだった。

母が自分で作ったアクセサリーも沢山出てきた。
人と同じ事を嫌うので、アクセサリーも一点物を買っていた。


華奢なアクセサリーより、男性が着けるようなゴツいアクセサリーを好んだ母。
しかし、サイズが無いので自分で作ってしまったのだ。


両手両足を広げ仰向けで暫く母の空間に居たら、静かに涙が流れ落ちた。
私は慌てて起き上がって流れた涙を拭っていたけれど、後から後から涙は止まらず泣いている。


母は何故、こんなに本を読み、映画を鑑賞していた。
母は孤独だったのかな?
否そんな事は絶対にない。宗ちゃんは母をとても愛していた筈だ。



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