拝啓
恋文
みんな元気かな…。
私は最近頭の中に霧がかかったみたいになって夢の中に居るみたいな感じがしてます。
その夢の時間が長くなっている…。
見えない恐ろしい恐怖が私の中に広がっている。
まだ、家族には知られていない。
今日ね、病院で宣告された。
私の頭の中に腫瘍があると…。
手術出来ないくらい進行していて、その腫瘍で私の意識が段々無くなり、やがて自分の事さえ分からなくなる…。と。
だからその前に、この手紙を書こうと思った。
きっとこの手紙を見つけるのは華澄だと思う。
ゴメンね…。
きっと華澄の事だからママの事で悩ませていると思う。
華澄には母親らしい事が出来なかった。
ああすれば良かった。
こうすれば良かった。
私の中で後悔ばかりが募っています。
宗ちゃんはきっと私が居なくなるなんて考えたことも無いだろうから、受け入れるなんて簡単には出来ないだろうから華澄…。
悪いけれど、暫く宗ちゃんの事宜しくお願いします。
ねぇ。華澄。
覚えていますか?
私の病気が良くなったら連れていって欲しいところがあると言ったこと。
それから、冬(ふゆ)と連絡が取れた事話したよね。
実は冬には私の病気の事話しました。
本当は華澄や宗ちゃんに先に話すべき事だって分かっているけれど、話せなかった。
冬には話せたのは、冬は私の全てを知っていてくれているから…。
弱くて、強がりで、泣き虫な私を知っている唯一の人なの。
私にとって家族とはまた違った意味で大切な人なの。
お願い、決して冬を責めないで、あの人は何も知らない。
私の片想いなの。だから、あの人は何も悪くないから。
華澄。
私の娘でいてくれてありがとう。
貴女は私の自慢の娘です。
段々私は物事を忘れてゆくでしょう。
最後には自分の事さえ分からなくなってゆく。
この部屋にある私の物。貴方の好きにして下さい。
きっと何かの役には立つだろうから。
正直、とても恐い。
人生の残りの時間を聞いてしまったから。
自分でそれを受け入れやり残したことをしようにも、あまりにも時間が無さ過ぎて、何からやれば良いのか分からない。
華澄。
私はきっと死ぬまで冬に恋をしていると思う。
そんなママを貴女は軽蔑するかも知れない。
許せないかも知れないね。
でも、これだけは譲れない想いなの。
冬は…、冬は静かに私を見守っていてくれる。
私も冬をずっと見守って居たかった…。
冬はね。もう1人の私かもしれない。
私もね色々悩んだりしたんだよ。諦めようともした。でも、出来なかった。
一生分の恋をしたの。
私を【人間】にしてくれた人なの。
勿論、宗ちゃんや華澄を愛してるよ。
なんて表現したら良いのか言葉が見つからない…。
ゴメンね…。
逢えなかった時さえ、私は冬の幸せを祈っていた。
離れられない人と出逢ったの。
実らなくても良い、私の叶わない片想いの恋なの。
きっと華澄には分からないかも知れない。
ママだって、自分のこの気持ちが何なのか分からないんだもの。
ただ、ずっと見守っているだけのオーロラの様な恋。
それでも、私は幸せだし、華澄や宗ちゃんは大切な事には変わり無いよ。
もっと、沢山華澄とは話をしたかったなぁ…。
置いてかれることも辛いと思うけれど、置いてゆくのもけっこう辛いんだね…。
もっと、生きたかったなぁ…。
ママより。