拝啓
私は手紙を読み終えて…。
その場から暫く動けなかった。
動こうとしても指一本動かせられなかった。
動けるようなって、私は冬也さんの手紙を拾い上げた。
確りと封がしてあったが、手紙が入っている様な厚みは無いみたいに感じた。
母はきっと私が見つけて、冬也さんに渡して欲しいと思ってこの本に私宛の手紙と一緒に入れたんだと思う。
私は自分宛の手紙を抱き締めた。
母の大好きな香りの残り香がする。
大好きな母。
母は私達が母の病気に気付いたときにはもう夢の中の時間の方が遥かに多くなってからだった…。
それでも、意識があったときは、母と話したり、宗ちゃんが側に居て母の世話をしていた。
夢の中の母は手紙を読むと意識がなかった。
つまり、無意識で冬也さんを恋しがり、見えない冬也さんの幻影を見つめていた。
母は本当に冬也さんに恋をしていた。
冬也さんはいったい何処まで母の事を知っていたんだろうか?
覚悟を決めなきゃ。
本当の母を知るには冬也さんに会う必要がある。
冬也さん宛の手紙を見つめまだ会う覚悟がつかない情けない。
母は言っていた。
私や宗ちゃんを愛していたと。
大丈夫。
私、冬也さんに会おう。