拝啓
エピローグ 宗二
宗二は彩佳と初めて会った時を静かに眠る彩佳の棺の横で思い出していた。
何時も豪快に笑い、相手が男だろうと許せない時は回りが止めるほど立ち向かい、沢山の音楽の話を聞かせてくれた。
だから、並んで歩いたときあまりの小ささに驚いた。
何時しか自分が無意識に彩佳を目で追い求めていた。
こんな人に2度とこの先出逢えないと思ったとき、彩佳に結婚を申し込んだ。
彩佳は静かに宗二を見つめていた。
少し哀しそうに見えた…。
そして、静かに微笑んで頷いた。
彩佳は強い女だとずっと思っていた。
彩佳の過去を知る度、自分は到底出来ないことをサラリと話した。
そんな彩佳だから、病気の事を聞かされたとき受け入れられなかった。
永遠に生きると疑いもしなかったから。
段々弱くなっていく彩佳を見るのは耐えられなかった。
時々意味が分からない事を口走る時間が多くなっていった。
自分の事を知らない名前で呼ばれた時もあった。
その時、宗二は彩佳を見れなかった。
彩佳の瞳は宗二を見る目では無かったから。
誰か知らない面影を自分に重ねていたから。
宗二は黙って、病室を出た。
彩佳がその後ろ姿に声をかけた。
『またね。』
その声は切なさと哀しさと愛おしさの混じった宗二には1度も聞いたことの無い声だった。
静かに眠る彩佳に静かに話しかけた。
『嫁さん。何で置いてくの?嫁さんは死なない人でしょ?』
彩佳は静かに眠ったままだった。
宗二はその側で椅子に座り何時しか眠りに落ちた。
そして、彩佳との日々を夢見てた。
深い眠りは人が入って来た事など分からなかった。