拝啓

住所は母の実家からそう遠くはない所にあった。
塗装の剥げた階段のあるアパートだった。


201号室


ブザーを押した。壊れているのか音がしなかったので、ドアをノックした。

コンコン…。


もう一度ノックした。


『誰?』
ドアの向こうから少し怒りのこもった声がした。

私は恐る恐る声をかけた。

『突然失礼します。私は高城 彩佳の娘で、華澄と申します。
こちらは島崎 智恵美さんのお宅でしょうか?』


返答が無かった。
私は黙ってドアの前に立っていた。
数分が経った頃、ドアが静かに開いた。

そこにはやはり葬儀に来ていた女性だった。
『彩佳の娘だったんだ。何か用?』


私は出来るだけ丁寧に、しかし、ハッキリと用件を言った。
『母の事を知りたいんです。お願いです。分かることで良いので、教えてくれませんか?』


智恵美は少し考えてから、顎で華澄を家の中に入るように促した。


華澄はドアを静かに閉めた。




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