拝啓
智恵美は目を虚ろにしながら話始めた。
『彩佳が高校1年の時、アタシと冬也は高校2年だったんだ。まっ、アタシは中退だったんだけとさ。
アタシと冬也が付き合い始めた時、バイト先で彩佳と冬也は出会ってたんだ。
アタシはそのバイト先に冬也を迎えに行ってたときに親しくなったんだよ。
その頃あたし達、よく喧嘩しててさ、その間に入っていたのが、そのバイト仲間で、当然彩佳も入ってた。
アタシ女友達居なかったのよ。
まっ、当然なんだけどさ…。友達の彼氏と平気で寝ちゃってたから。
でも、彩佳は彼氏居なかったし、何でか、アタシと連むようになったの。』
智恵美は溜め息混じりの煙を吐き出した。
私は智恵美さんを改めて見た。
ホッソリした顔立ちに痩せた体。何処か荒んでいたけれど、その中に淋しさが垣間見れた。
母は何故この人と連むようになったのだろうか?
智恵美が再び口を開いた。
『彩佳は冬也の為にアタシの側に居たのかも知れない。
あの子が冬也の事好きだった事、アタシは知ってから。
アタシは時々仲の良さを見せつける様に冬也との事を彩佳に話した。
でも、あの子は黙って聴いてただけだった。
アタシが他所の男の所へ行こうとすると本気で止めて、そん時のあの子の哀しそうな顔…。今でも覚えてる。
でも、アタシは言うことなんて聞かなかった。
普通なら、そんな事するれば、冬也に浮気の事を話せば、冬也はアタシと別れるだろうし、あの子にとってはチャンスだったのに。
あの子は絶対言わなかった。
未だにアタシはそこが分かんないけどね。
そして、冬也が彩佳に気があるのを知ったアタシは絶対あの二人が結ばれる事を許せなくて邪魔をした。
どう?
あの子が愛した人で、冬也もあの子を好きだったのを最後まで邪魔をしたのはアタシ…。』
私は愕然とした。
母が死の間際まで恋をしていた。
冬也さん…。
本当は両思いだったのに。この人によって全て壊された事を母は知っていたのだろうか?
そして、何故母はそれでも尚この人と一緒に居たのだろう?
冬也さんの為?
自分の為?
私はヨロヨロと立ち上がり玄関に向かった。
智恵美さんは私の腕を掴み言った。
『もし、アンタの父親に会いたかったから又来なよ。アタシ居場所知ってるから。』
私は智恵美さんを睨み付け掴まれた腕を振り払い玄関の扉を力任せに閉めた。