勇者と魔王の弟子の物語
少女は同じような年頃で、長い金髪は風がふくたびにサラサラと動く。
身長は高く、俺と同じくらいある…と思う。
色白で、白のレースのワンピースが良く似合う。
だが、何よりも人を惹きつけるのは
血のように赤く美しい目だった。
少女から目をそらすことはできなかった
俺だって赤い髪だけど、眼は黒い。
瞳が赤なんて、今まで会ったことはない
「…あの……?」
「あ⁉︎あ、ああ…」
ハッと我に帰り、オレンジをカゴに乗せてやる。
良く見ると少女は中々の大荷物で、腕一杯に食料を抱えていた。
「ありがとうございます!助かりました!
ところでお兄さん、もしかして…
…勇者様でしょうか?」
「…え、ええ…」
急に言われて生半可な返事になってしまう。
「やっぱり!ここには勇者志望の方が沢山来られるんです。
だからそうかなって!」
そこはさすが、魔王の城の近くの町だ。
「俺は勇者のトゥルークです。魔王を倒す為にアヴィニョンに立ち寄りました。
名前を伺っても?美しいお嬢様?」
丁寧にお辞儀をして、少女に名前を聞く
…名前ぐらいなら聞いてもバチ当たらないでしょ。
こんなに素敵な笑顔の子と友達になれたらいいな、なんて……
少女はまぁ、と頰をピンク色に染めた。
…………かわいい…………
「私はこの町の教会で子供たちの世話をしています、アウローラと申します。」
アウローラ……綺麗な名前だ。
「そういえば、どうしてこの町はこんなにのどかなのですか?
もしかして、魔王は既に倒されてしまったのでしょうか?」
もし倒されていたら、俺がここに来た意味が無くなってしまう…
そしたら……
「あ、魔王様は居ます!ピンピンしてると思います。
…まあ正確には、“魔王”は居ませんが」
少女は慌てて訂正する。
俺が、どういう意味だ?という顔をしていると、アウローラが説明してくれた。
「数年前魔王亡くなり……その魔王の弟子が今は城を守ってるみたいですね。」
…つまりそれは、魔王の意思を継いでいる者がいるというわけでは…?
実際、最近も魔王に操られた魔物が各地で甚大な被害を起こしている。
でも、アウローラもこの町の人もなんだか魔王…の弟子を恐れているようには思えないし…
「…あの、すみません!私はこれから用があるもので、後の話は町長に聞いていただけますか?」
俺が考え事に没頭していると、申し訳なさそうにアウローラは言った。
「ああ!すみません、引き止めてしまって。またよろしかったらお話を聞かせてください。」
もしかしたら忙しかったのかもしれない。
申し訳ないことをしたな…
「はい!もちろんです!」
「あ、よかったら荷物持つの手伝いますか?」
あの量を持つのは中々大変だろう。
「いえ!慣れてるので気にしないでください!!それでは、また!」
アウローラはくるりと方向転換して、意外にしっかりとした足取りで町の中へ消えていった。
「…不思議な子だなぁ……」
また、会えるといいなぁ。
さて、町長に話を聞きに行くか…
トゥルークは町長の家を探すため、町の中心の方へと歩き出した。