勇者と魔王の弟子の物語
魔王の城
しばらく歩くと、他の家より少しだけ大きい家が見えた。
あそこか……
俺がトントン、とドアを軽く叩くと、中から軽い返事が帰ってきた。
「何用かね?」
ドアから出てきたのは、初老の男性だった。
優しそうな雰囲気のおじいちゃんだ。
「俺は勇者のトゥルークと申します。アウローラという少女に、分からないことがあったらここに行ったらいい、と言われて来たんですが。」
そう言うと、老人はああ…と納得し、俺を家に入れてくれた。
家の中は普通の民家と同じで、この町長は多分いい人なのだろう…と思った。
今の世の中、役人や長は民の税金で好き勝手やっている輩が大半だからだ。
テーブルを挟み、ソファに腰を下ろす。
「どうも、わしがアヴィニョンの町長のダリアスじゃ。
今回はアウローラ様の紹介だそうじゃが…
あの方は、美しかろう?」
ふぉふぉふぉ、とダリアスは陽気に笑う
「え、ええ…すごく…」
…アウローラ……“様”…?
そうじゃろそうじゃろ、と何故か嬉しそうに頷く。
「あの方はの……このアヴィニョンの誇りなんじゃ!!!
…間違っても、惚れるでないぞ…?」
「なぁっ!!?間違ってもないです!」
な!なにを言い出すんだ…!そんなことは絶対にありえない!!
「かっかっかっ!!!冗談じゃよ!!
…では、本題に入ろうかの?」
あ、そうだった…。
「俺は勇者です。魔王を倒す為にこの町を訪れたのですが……この町は魔王に支配されていると聞きましたが?」
ダリアスはふむ…とすっかり銀色になったヒゲをいじる。
「それは…本当じゃ。この町は魔王の弟子の支配下にある。」
「なっ!では、なぜ!!何かを要求されたりしているのですか!?」
「…まぁ、落ち着きなされ。ここには沢山の勇者志望の者が来るんじゃ。皆魔王を退治しにな。だが、全て返り討ちじゃよ。…それでも、魔王の弟子を倒すか?」
…それほど、魔王は強い、ということか…
「…望むところです!」
「…望むところ…のう……」
ふぅ、とダリアスは息を吐くと立ち上がり、側のタンスから紙をだしてきた。
「ここが魔王の城じゃ。やれるもんなら…倒してこいっ!!」
……なんか、勇者ってこんな扱いだったっけ?
俺は地図を握りしめ、町長の家を出た。