勇者と魔王の弟子の物語
…あれ、痛くない?
僕は閉じてしまっていた目を少しだけ開けた。
目の前には、大好きな優しい母さまの顔だ。
母さまの笑顔を見るといつでも安心できる。
「大丈夫?怪我はない?」
「うん、大丈夫だよ!」
「そう、よかっ……」
母さまの顔からは笑顔が消え、ゴフッと口から血をはいた。
母さまの背中には、父さまの血がついていた長剣が深々と刺さっていた。
「か、母さま!母さままで!!」
「…いい?アルバート逃げるのよ…!どんな事があっても、生き延びなさい…!
…貴方は私たちの…大切な王子…だから…!」
母さまは、もう一度、笑った。
嫌だ、こんな時に笑わないでよ。
まるで、最後のお別れみたいじゃないか
嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!
「アル様!王妃様!!!」
入り口から叫んだのはロイドだった。
「ロ…ロイド!!母さまがっ!母さまがっ!!」
「フェイト将軍!これはどういうことかっ!!!」
ロイドは剣を抜いて、将軍に向かっていった。
「…俺に向かってくるか、いい度胸だな小僧!!」
「やめなさい、フェイト!」
母さまの声を無視し、フェイトは背中に突き刺さった剣を抜こうとした。
でも
剣は1ミリも抜けなかった。
母さまの背中には、魔方陣が浮かび上がっていた。
そして、魔方陣を中心に母さまの体は灰色になっていく。
「……この女!自分に石化魔法をかけやがった!!!
くそっ!抜けねえ!!」
どんなに力を入れても、剣はビクともしない。
「母さま!なんでっ!母さま!母さま!」
「王妃様!おやめください!!」
「良いのです!!ロイド、アルを連れて行って!早く!」
僕とロイドに母さまは怒鳴る。
「…い、嫌だ!僕は母さまと一緒にいるんだ!」
「ロイド…早く…!!!」
母さまの体はみるみる石になっていく。
「…クッッソォォォォオオオ!!」
ロイドは僕を抱えて隠し通路へ走る。
「なんで!ロイド!!離して!!」
僕はわめき散らし、暴れた。
「アル様!暴れないでください!あと少しです!!!」
「嫌だ!母さま!母さま!!」
「くそ、ガキが、舐めるなよ!!」
フェイトが右手をかざすと、魔方陣が浮かび上がった。
通路まで、あと少し。
「“ファイラ”」
右手は魔力が高まり、高質量の炎の塊が放たれた。
「!!二人とも!危ないっ!!」
母さまの声に、ロイドが気づく。
「クッ!」
僕たちは通路に滑り込んだ。
「……よかった……!」
王妃の目から雫がこぼれた。
息子を命懸けで守った勇敢な女性は、美しい石像になった。
「こぉんの、クソ女!王子を取り逃がしちまった!」
フェイトは思いっきり王妃の体を蹴った。
王妃の体は粉々に砕け散り、光となって消えていった。
…………さようなら…………