【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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『全てを知らなければ、』


ある日曜日の夕暮れ、露李は神影家の書斎の前に立っていた。

あの言葉が脳裏に焼き付いて離れない。

思い当たる節が、あったからなんだろうな。

自分でも分かっていた。

水無月から聞かされた力の話。

陰と陽、力の差があれば弱い方が取り込まれる。
認めたくはなかったが彼らが負けたのは事実で。

そして彼らが「生」に頓着していないということ。

敵から聞かされるのがこんなに嫌なものだったなんて。

今思ってみれば彼らの家のことを何も知らない。

守護者ということしか。

友好関係はそれでも変わりないだろう、だがこれ以上知らないことがあるのは嫌だった。

あまつさえ敵に教えてもらうなど。


「それにしても、どうやったら開くのこれ」


書斎とは名ばかりで実態は大きな書庫。

頑丈な木の扉は年季が入っているくせに強固だ。

南京錠もないし、見た目だけは“閉まっている”。

押すしか方法がないため渾身の力で押してはみたが、頑として動かない。

んんん、と唸りながら何気なく手を置くと────開いた。

ギイイという重厚な音と共に扉が開き、中が露になる。
さすがにカビ臭い。

空気は妙に張り詰めて澄んでいるし、頭が引っ張られるような感覚。

押したり引いたりしても開かないのはフェイクか。

つまりは結界が張られていたのだろう。

なかなかに単純で巧妙。

めぼしい文献がないかと、露李は書庫の奥へ足を踏み入れた。

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