【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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「くそ…………!」


扉を閉めた途端、後ろから押し殺した嗚咽が聞こえてきた。

疾風は耳を塞ぎたい衝動に駈られた。

笑っていて欲しいのに。

そう思うが、今の自分が露李の涙を拭きに行くことは不可能だった。

結のところに行かなければいけない。

自分たち守護者に課せられた死は、花霞と風花姫を護った末のものだ。

けど、結の死は違う。

疾風も常々感じていた「道具」という言葉の意味─それが結に形だけでも当て嵌まってしまう。

結の様子から、彼がずっとそのことを知っていたのだと分かる。

ひた隠しにしてきたのだ。

それが知られた。

それから露李の存在だ。

彼女は守護者たちが長い年月をかけて受け入れた死を、運命をぶち壊そうとする。

絶対に諦めないという。

変なところで儚くて、泣き虫なくせに強がって。

泣けば良いのに、諦めれば良いのに。


──俺達は、いずれ花霞と共に死ぬ。


もう受け入れた、覚悟もした。

今まで唯一納得いかなかったことさえ露李は消してくれた。

本当は、ただ道具のように扱う高飛車な姫様が来るかと思うと心底嫌だった。

でも、その姫様は想像と真反対だった。

人一倍苦労もして、辛い思いをしていた。


──辛いことだなんて、露李が一番知っていたんだ。


だからこそ俺達を大切にしようとする。

死にたくないと思わせるようなことを言う。

いつでも死ぬ覚悟はできているはずなのに、もっと時間が欲しいと思ってしまう。

いずれ必ず来る死を忘れそうになる。

それをもう一度、手遅れになってから受け入れるのはきっともう無理だ。

結は、その時が来れば一人で死ななければならない。

今の自分たちの力量なら十分に可能性がある。

“そのとき”が来てしまう。




──アイツが、壊れてしまう。


疾風は苦渋の表情を浮かべて結の気配を辿った。






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