【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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「やっぱりここに居たんだな」


息を切らした疾風がたどり着いたのは、幼い頃によく一緒に遊んだ洞窟だった。

洞窟と言っても日の光が降り注いでいて明るかったため子供には最高の遊び場所だ。

近くには小さな湖さえある。

しかし今は冬なので薄暗い。

結は洞窟の上の岩場に座っていた。

文月、理津、静がその少し後ろに腰かけている。


「何でお前らいるんだよ」


結が無表情で呟いた。


「結が逃げるからだろ」


「逃げてねーっての。先輩と、敬語を使え…」


声は掠れて弱々しいのに、無理に笑おうとする。

昔から弱ると強がって年上を気取るのが結の癖だ。

懐かしい言い方に疾風もふっと笑みを溢す。


「結は昔っからここに来るよねぇ」


「マジで迷惑。ここまで来るのウゼーんだよ」


「変わりませんね」


文月、理津、静も柔らかい笑みを浮かべる。

その笑顔を肩越しに見た結はばつが悪そうな顔でまた遠くを見た。

視線の先の山には、頼りないくすんだオレンジの光を放つ太陽があった。


「…黙ってて、悪かった」


贄の儀のことだ。

謝られた四人は一瞬で察し、どうしたものかと俯いた。

揃いも揃ってここへ来たのは衝動的なもので、その後など考えもしていなかった。

いつもは冷静な文月でさえもだ。


「何、謝ってるの」


「死ぬときは皆一緒だって、ガキの頃に約束したからな」


まだ幼かったあの日。

誰かが生き残る、ましてや誰かが囮になって誰かを逃がす──そんなことは思いつきもしないほど、小さな頃。


『お姫様を守って、俺たちはぜってー死ぬときも一緒だからな!男の約束!』

そんな考えは浅はかでしかないのに。

自分たちが死んだところで風花姫がまた狙われたら、元も子もない。

死が勝利ではない。

敗北を意味することも有り得るのだ。

それに、大切なのは風花姫でも守護者でもなく「世界」だ。

神や妖の時代は結たちからは程遠い。

そのときに起こったことの程度は分からないが、語り継がれるほどの恐ろしさだったに違いない。

だから自分たちは道具だと思い続けてきた。

そうでもしないと生きたいと願ってしまう。
 

「それでも良いって思ったんだよ」


唐突に結が振り返って言った。


「俺の魂でお前らが生きられんなら、それで」


笑顔だった。

心からの言葉だ。

やはり四人とも何も言えなかった。

どの言葉も相応しくない。

結はまた、いつものようににかっと笑った。


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