【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
***


「俺はね、君の力を吸い取ったんだよ。魂が対になってるからできることだ」


水無月は懐かしそうに柔らかく微笑んだ。


「そんなの…氷紀兄様が、でも…信じられません。対だなんてそんなこと」


「そう…やっぱりそうか。じゃあ教えてあげる」


露李が身動ぎする。

何か恐ろしいことを言われる、そんな予感がしたのだ。


「俺たち鬼には、“同じ容姿の組み合わせ”はいないんだよ」


声が出なかった。

俺たち。俺たちって誰のこと。


「露李ちゃんみたいな、金の瞳に銀の髪。色彩の濃淡までが同じなのは俺だけだ」


「私は鬼じゃ、」


露李の言葉を聞いた瞬間、水無月はこれまでに無いほど笑いだした。


「君が鬼じゃない、ね。その姓と容姿で分かるのに。金の瞳に銀の髪はれっきとした鬼の旧家、夏焼家のものだよ」


「ちが、私は!」


そう叫んで後ろを見る。

何より守護者たちの反応が気になった。

神影でないなら、私は。


五人とも、目を見張ってこちらを見ている。

すぐ後ろにいる結と目が合った。


「露、李」


優しい声で名前を呼ばれた。


優しい優しいはずの声が、露李には酷く痛く心に刺さって。

「私は、神影の人間です」


それ以上見ていられずに目をそらした。

震えた声が喉から絞り出される。


「頑固な子だね。俺はずっと、対だから幽閉されていたのに」


「幽閉?」


「鬼は力が強すぎる。だから露李ちゃんも鎖で繋がれたりしてたじゃん」


否定する根拠がない。

何故繋がれていたのか、今でも分からないのに。


「本当の鬼は、力をむやみやたらに発動させたりしない。それに比べてあの一族は、雑魚だよ。簡単に光を出すみたいな茶番ばかりで」


水無月の金眼には侮蔑の色が浮かんでいる。

一族が神影を指していることは明らかだ。


「暴走しないで現れない力、それが鬼の力だ。あいつらの力が発動するときは暴走から始まる。それも自らで抑えられるほどのね。もし俺たちの力が暴走なんかしたら手に負えない」


「だって私の力は貴方が!」


「浅はかな考えだったよ。鬼としての力が無くなれば君が自由になるなんて、有り得ないのに。全部吸い取ったはずなのに──」


水無月は嬉しそうに目を細める。


「君の力は強大だ」


やめて、と願った。

願っても届かない。私はどうすれば。

花霞は。封印は。

パニックに陥りかけたとき。


「有明さまが俺を助けてくれた。俺たちの目的は花霞。俺は有明さまと取引したんだ、露李ちゃんを必ず取り戻すって」


まさか、と息を飲んだ。


「露李ちゃんの身柄が俺の第一目的だよ」


「待てよ!さっきから鬼やら何やら、露李をどうする気だ!」


結だ。


「雑魚には過ぎ足るものだからね。連れていくよ。俺の有明様への忠誠心は露李ちゃんでしか繋がってないんだ」


水無月がそう言った瞬間、宵菊が狂ったようにもがく。


「おのれ水無月っ!無礼にも程がある!」


「やめてよ見苦しい」


冷酷非情に言い放った。

「私がそちらに行けば、この人たちを傷つけないでくれるんですか?」


露李が俯いたまま、しかし凛とした声で訊ねる。


「あえてこの雑魚を傷つけようとしてるわけじゃないけど…まぁそれなりに」


「何を言ってるんだ露李!花霞はどうするつもりだ!」


「露李先輩!」


疾風と静も叫ぶ。

露李の後ろ姿が、決意を表しているようだった。

初めて見た、“鬼”の姿もどうでも良かった。


「うるさいよ雑魚。君たちさぁまだ露李ちゃんが花霞を封印できると思ってんの?」



全員が、言葉を失った。


その意味するものが、何なのか。


淡々と暴露する水無月だけが、月を背に微笑んでいる。






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