【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

「風花姫の力は花霞に封じられた霧氷の最も欲しているもの。それが近くにあったら花霞は力を最大限に出すだけだよ。風花姫は大きな欠点も持ち合わせてるしね」


「欠点…?」


「花霞に徐々に気を吸いとられた結果───短命だ」

 
水無月が言いたいこと、それは。


「ここにいればいるほど露李ちゃんは死ぬ運命なんだよ」


守護者たちが苦しそうに顔を歪めた。

知らなかった。

目の前にあるものをただ真っ直ぐに信じていた。

思えば、自分達は己の運命を知って卑屈になっていたのかもしれない。


「──つまり、私がここから去れば花霞は放たれない、そういうことなんですね」


露李の確かめるような声が響く。

一言一句、噛み締めるように。


「…そういうことになるね」

水無月が頷く。


「露李…何、考えてるんだよ…」


理津が掠れた声で拳を震わせた。


「なぁ露李!!何か馬鹿なこと考えてんじゃねーだろうな、俺達はっ──」


結が最後まで言い終わる前に、笑顔を向ける。

露李にはもう自分に時間が無いことが分かっていた。

腕から次第に這い上がってくる青の紋を感じていた。

結が言葉を切ったところで、守護者一人一人を見つめる。

死はこんな穏やかではないはずだ。 

もう二度と会えないかもしれない仲間を、ちゃんと目に焼き付けておきたかった。

大切で、幸せな思い出たち。


「皆、今までありがとう」 


「何言ってるの、露李ちゃん」


文月の声に耳を貸さずに続ける。紋が胸元に鎖のように巻き付いている。


「私を受け入れてくれて、今までで一番幸せだった。迷惑もいっぱいかけたし、嫌なことも沢山言ったと思うけど、それでも」
 

ねぇ、どうか。


「本当にありがとう」


貴方たちの未来が、幸せでありますように。


「そろそろ行こうか」


「─はい。頼みますね」


やけに穏やかだと思った刹那───。

轟音とともに、青い光の魔方陣が露李の下に現れた。

そこから逆さまの滝のように光が溢れ、身体を包み込んでゆく。


「露李ーーっ!!」


穏やかに微笑んでいた彼女を呼ぶ声は、もう誰のものか分からない。

眩しい光が消えると、そこには青いガラス球の中で眠る露李がいた。


「…何をした」


驚くほどの殺気が結達を襲う。

水無月の言葉の一つ一つが、泣いているようだった。

カツン、という音。


「氷紀、生きていたのですね」


未琴が厳しい目で水無月を見据えていた。










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