【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく

「え……」

そこに鎮座していた人物を視界に入れた瞬間、露李の表情が驚愕の色に染まった。


「え、何で…美喜」


そこにいたのは紛れもない、美喜だった。

露李の数少ない女友達の一人。

目元のきつさも黒髪も、何一つ違うところはない。

違うとすれば、彼女が放っている気だろうか。


話し方も違う。美喜は自分のことを知っていたのか。

いつから。どうして。


尋ねたいことが溢れそうになるが、まとまらない。

どれも声にできない。


「ほう、美喜…とな」
 

有明は薄く笑う。


「あの者はそんな風に名乗っていたのか」


「何を…貴女は美喜でしょう?」


露李の問いに、満足げな顔をする。


「そうだな、私であり私ではない」



ふふ、と笑う有明に、露李は眉を寄せた。

どういう意味だろう。

そう思ったとき、一つの考えが浮かんだ。

俄に信じがたい、外れて欲しい考え。


「まさか、美喜は──式神?」


有明の口角がゆっくりとつり上がる。
 

「すぐにその考えに至るとは、なかなかに頭が良いらしいな。その通り、あいつは式神だ」


「そんな、あんな意思のある式神が…」


人間味溢れる式神にはそうそう出会ったことがない。


「あいつには私の魂の半分を入れて作ったからな。意思の共有、目前の光景や記憶の共有もできる、実に優秀な子だ」

「全然、分かりませんでした」

「当たり前だ。お前は力がほとんど無い状態だった上、私の隠蔽の呪がかけてあったのだからな。余談だが、私の特技は現出の呪だ」


現出の呪、物体を造るかどこかから移動させるかして手元に呼び出すもの。

きっと有明は前者だ。


「風花姫、名前は何と?」


質問されたことに気づくのに数秒。


「露李、です」


「では露李姫。お前は美喜に会いたいか?」


「はい…」


どのくらい経ったのかは分からないが、美喜にはあまり会っていない。


「ならば呼んでやろう。その前に、部屋を与えてやらないとな。部屋はいくらでもあるが、まあ。水無月に頼むとしよう」

水無月聞いていたか、と有明が御簾の外の水無月に呼びかけた。


「聞いてますよ。嫌でも聞こえてきます」


「口の減らん…任務以外の時のお前は失礼千万だな」


「どうとでも」


もう行って良いぞ、と言う有明に頭を下げてから部屋を出る。


「露李、大丈夫?」


「はい。大丈夫です。かなりびっくりしているだけで」


「まあそうだよねー」


誰でも驚く。


今まで生身の人間として付き合っていた友達が、式神だなんてなかなかない。


「それはそうと、部屋はどこが良い?」


「えと…」


どこがと言われても。


「あ、そっか知らないか。じゃあ、うーん。庭に面したとこが良いかな。俺の部屋の隣だし」


「あ、水無月さんの近くなら…」


水無月が氷紀だったと分かっても、距離の取り方が難しい。


「露李」


「え?」

「遠慮しなくて良いから。俺は氷紀なんだから、前みたいにして。最初が最初だから仕方ないけど」


願うように言われ、こくりと頷く。

水無月は嬉しそうに笑い、露李の頭を優しく撫でた。



< 165 / 636 >

この作品をシェア

pagetop