【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
「有明様──じゃ、ないな」
ちらりとそちらに目をやった水無月が言った。
「美喜?」
露李が問いかける。
「久しぶり、露李」
美喜が柔らかく笑った。
口調も仕草も、美喜そのものだ。
しばらくぶりの友達に心の中がポッと温かくなる。
「美喜…しばらく学校来てなかったけど、大丈夫なの?」
あまりにも日常的過ぎる会話に美喜が呆れた顔をした。
「神経図太いわねあんた。学校来てなかったのは露李の方でしょ」
ああ、確かに。
表情に出たのかまた美喜と水無月に笑われる。
「俺、部屋にいるから。女の子二人で楽しんで」
不意に水無月が立ち上がり、そう告げた。
気を遣ってくれたのだろう言葉に笑顔で応える。
パス、という軽い音と共に襖が閉まった。
「露李…抜けて来たんだってね」
唐突に美喜が切り出す。
「うん。…あそこに居ても、皆に迷惑しかかけないから」
「あいつらはそんなこと思うかしらね、分かんないけど。少なくとも朱雀と水鳥は思わない気がするけどな」
「どっちにしろ、私の存在が皆を死に近づけるのは確かだから。もう会えなくても、それでも─皆が生きてるなら」
私は頑張れる。
身勝手でも、皆を守ることになるなら。
「あんた馬鹿ね」
「へ!?」
「そんな自己犠牲ばっかで…もう少し、自分のこと大事にしなさいよ」
「美喜は知ってるの?その、私のこと」
美喜は膝を抱えて目を伏せた。
「当たり前でしょ。有明様と初めて記憶共有したのがあんたのことについてだし。今までやりたいとも思わなかったけど」
「そっか」
「鬼、なんでしょ。それに……あたしのことも聞いたみたいね」
うん、と声を出さずに頷く。
下手なことを言って美喜を傷つけたくなかった。
「式神って自覚はあんまり無いのよ。これでも人間として生きてきてるの。でもまぁびっくりするわよね」
美喜が露李の手に触れた。
冷たい。前に美喜は冷え症なのだと言っていたが。
「冷たいでしょ。血が通わずとも生きられるから。だから体育の授業も見学してたのよ、転んでも血が出ないなんて気味悪いでしょ」
「転んでる美喜なんて想像できない」
「可能性の話よ。ふふ、あんたらしいわその感想」
ねえ、と美喜が身を乗り出す。
「式神だって分かっても、露李はあたしの友達でいてくれるの?」
──血も通わない、妖でもない、私を。
露李は、友達だと思ってくれるのかしら。
「何でそんなこと聞くの?当たり前でしょ」
驚いたように、そしてさも当然だという態度の露李に拍子抜けした。
「そう…ありがとう」
顔を背けて言った美喜は、気分を変えるように手をパチンと打った。
「いずれ帰るだろうけど、ここへ住むなら色々準備しないといけないわね。でもあたしはあんまり出て来られないの、ごめんね」
いいよ、と返事をすると、また襖が開いた。
「有明様!」
露李が慌てて頭を下げると、有明は尊大に笑った。
「そんなことはしなくて良い。必要以上に頭を下げられると寂しくなる」
「あ、はい」
思いもよらない言葉に狼狽えながらも返事をすると、有明は満足そうに頷いて美喜の方を見た。
「先ほども言ったが黎明。美喜と名乗っているなら教えて欲しかったぞ」
ん?と露李は首を傾げた。
聞き慣れない呼び名だ。
「『黎明』?」
「黎め…ああ、そうだな。美喜の呼び名だ。私の式神第一号だから、夜明け─黎明」
「そうなんですか、美喜の名前なんですね。あ、じゃあ私も呼んだ方が良いのかな」
美喜の方を振り向くと、美喜は目に見えて嫌そうな顔をした。
「嫌よ」
即答。
驚いて露李が言葉を失っていると、有明の快活な笑い声が響いた。
「はは、良い良い。美喜の方が人間らしくて気に入っているんだろう?美喜」
「…そうですけど」
ふて腐れたように答える美喜。