【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
有明はまた面白そうに笑い、露李と美喜の横に座った。
上質な赤い着物がひらりと視界を舞う。
「私の周りには最近、男しかいなくてなぁ。今日はガ、ガールズトークとやらをしてみたい」
言い慣れない感が全面に出ている有明は可愛らしい。
─そうだよね。美喜と同じ容姿でも、私と同じか歳上くらいだもんね。
有明の言葉遣いと発するオーラのせいか気兼ねせずにはいられなかったのだが、今思えば年は近そうなのだ。
「ガールズトークですか…あれ、でも宵菊さんは?」
確か敵陣には艶やかな女性が一人いたはず。
「あれか?あれは男だぞ?」
「はぁ!?」
思わず声を上げた。
強気なのは露李の素なので、このビックリ発言に対する反応は致し方ない。
「いや、いや、あの。え。あ、そうか聞き間違いか」
「聞き間違いじゃないわよ」
あいつ男よー、と美喜は遠い目で言う。
「何だ、分からなかったのか?」
「普通分かりませんよ!!」
あの口調、あの容姿。女性そのもの。
「れっきとした男だぞ、奴は。分かりやすいではないか」
「どこがですか!?」
「なぁ美喜?」
「分かりやすいですね」
嘘だぁ、と呟く。
「ところでだな、露李姫」
「はい…?」
衝撃の抜けない露李。
「この家での決まりを作らねばならんのだ。多少不便かもしれんが我慢して欲しい」
「決まりですか」
「ああ。申し訳ないが、風花姫を狙う輩は沢山いてな。力が戻った以上、この敷地から出ないで欲しいのだ」
「分かりました」
これ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「というわけで学校も、行けなくなるのだが…」
申し訳なさそうに言う有明ににっこりと微笑みかける。
が、有明と美喜にはそれは酷く寂しそうに見えた。
「大丈夫です」
「すまないな。美喜をこちらへなるべく寄越すから、我慢してくれ」
「はい」
「それから。何分客人が多いからな、この屋敷で洋服を着てもらうわけにはいかんのだ。水無月などは家を空けやすい従者だから許していたが、露李姫は客人であるし、これから住むのだからな」
そんな私は客人じゃ、と反論しかけた露李を有明が制する。
「しばらくは体の弱い親戚を預かっていることにする。着物を着てくれないか」
「はい、それなら大丈夫ですけど…」
自分は客人などという身分ではない。
その考えが露李を戸惑わせた。
「ありがとう。よし!そうときたら着物選びだ!とっておきのを用意する、せめてこんなことでも楽しみにしてくれ」
有明は嬉しそうに立ち上がると、二人に暇を告げて出て行った。
が、三秒も経たない内に戻って来る。
「忘れていた」
そう言って右手を上げる。
ふわっと温かい風が露李に向かって吹き、瞳と髪を元に戻した。
「またな」
そしてまた去って行く。
ふう、と息をつく二人。
「露李…もう会えないのよ?あの五人と」
念を押すように美喜が露李を見つめる。
「分かってるよ。結先輩、文月先輩、疾風、理津、静くん…もう二度会えないかもしれない」
きっと死ぬまで。
海松もだ。
何も言わずに、さよならも言わずに別れてしまった。
「何で、泣かないのよ…あんたあんなに」
楽しそうだった。
疾風や理津もまた同じように。
お互いを大切にしたいという思いが暖かい空気を作っていた。
それはもう、羨ましいほどに。
「会えなくても、皆が生きてるなら良いの。自分で決めたことだから」
ああ、どうして。
「変なとこで強い…でもね、それは身勝手だと思うわよ」
冬の日差しが差し込む部屋で、露李は美しく微笑んだ。
寂しそうで、儚げな笑みだった。