【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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広い縁側に正座して、消えかかる夕陽を眺める。


上品な桃花色が基調の振り袖という出で立ちの露李。


頭部は栗色の髪を引き立てるように四季の花が飾ってある。


真冬にそんなことができるのはさすが有明と言えようか。


「露李姫。客人はもう帰ったぞ」


有明が後ろから声をかけた。


「有明様。お疲れさまです」


「ああ。一応、ここは華道の家元だということにしているからな。展覧会や何やかやの相談が上手くいかないんだ…疲れた」


隣に座り、こてりと首を露李の肩に乗せてぼやいた。


「大変ですね」


「まぁな。そういやあのオッサン、露李を褒めていたぞ。可憐で美しいと。ぜひ奴の息子と知り合わせたいものだーとか」


えっ、と露李は頬を赤くさせた。

可憐だなんて言われたことがなかった。

巫女の里ではともかく、守護者たちは──。

そこまで考えてから、急いで思考を閉ざす。

自分から離れたくせに何を。

淋しい、だなんて。


「ねぇそれ誰?露李をどっかの馬の骨に嫁がせるとか許せないんだけど。グサグサして来るから教えてくださいよ有明様」


「お前、地獄耳かよ!」


水無月と睡蓮が歩いてきた。


「教えるわけなかろう」
 

有明はむくりと首を起こして答える。


「宵菊はどうした?」
 

「あいつならまだだぜ」


そうか、と呟いて有明が立ち上がる。


「野暮用だ、露李。今日は疲れているように見える。夕飯まで寝ておけ」



有明が目配せすると、睡蓮が押し入れに向かった。

「勝手に悪いな」


と一言、布団を敷いてくれるらしい。


「睡蓮さん、あのっ、私が」


「有明様の命令だからだーいじょうぶだ。気にすんな」


以前は毒々しく見えた目も今は優しい。

この二週間だけで彼らが優しいことに気づいた。

敵として出会ったのが悲しく思える。


「露李、ちゃんと横になるんだよ」


水無月が露李に笑いかけた。


布団に潜り込み、全員が去るのを確認すると、露李は瞼を閉じた。



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