【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
感情の昂りに反応するようになった己の姿。

少し悲しかった。


「どうしてっ、どうしてあの人たちを傷つけようとするんですか!?」


皆が何をしたって言うの。


「露李。戻れ。もう話すことはない」


「私にはあるんです!」


「…黙れ」


酷く冷たい声が響いた。


「私に逆らうと言うのか?あの雑魚どもがどうなろうと私には関係がない。愚かな者たちよ」


目の前にいる人物が誰なのか、分からなくなりそうだった。

優しく微笑んだあの顔は。

あんなに温かい光を宿していたあの目は。

どうして今こんなに冷たいのだろうか。


「ふざけないで下さい!」


冗談だと思いたいのに。

露李の髪が銀に変わり、一対の角が現れる。

もうそんなことはどうでも良かった。

有明を止めなければ。

金銀の気が辺りに満ちる。


「露李殿!気を仕舞え…!」


声を上げたのは秋雨だった。

酷く苦しそうに、泣きそうな顔で。


露李の怒りが少し収まると共に気が薄まる。

そして、目をみはった。

静かな空間に笑い声だけが響いている。


「はは、ははは…これが千年目の風花姫の力か…」


そこには、嬉しそうに自分の姿を見つめる有明がいた。

銀の髪、真っ青な瞳。一対の角。

紛れもない鬼の姿だった。


「有明様……秋雨くん…」


呟いたのは水無月だった。

露李は驚いた顔のまま秋雨に目を向けた。

銀の髪、柘榴色の瞳。二対の角。


「そうか、意図せずとも気だけで本来の姿に戻せるのだな」


有明は薄笑いを浮かべて露李と目を合わせた。

青を帯びた銀の光がゆらゆらと立ち上る。


「私の真の名は春月 扇莉。鬼の四家、春月の末裔だ。そして私は…お前を殺す」


その唇から出た言葉が信じられなかった。


「まだ力が不安定で良かった。今を逃せばどうなっていたか分からぬ」


にやりと笑った瞬間──露李の腕に激痛が走った。

ボタボタと血が落ちた。


「くうっ…」


有明の手には小刀が握られている。

一瞬で傷は消えたが、まだ疼くような痛みが腕に残っていた。


「露李!!」


水無月が駆け寄り、露李の前に立ちはだかった。

刺されたのだと理解するのに数秒。

痛かったはずなのに傷がない。

まだ信じたいと─有明がこんなことをするはずがないと、そう心が叫んでいた。


「有明様っ、何を考えてんだ!」


星月夜が焦ったような声で叫んだ。

睡蓮と宵菊は青ざめて腰を浮かせる。


「お待ちください、有明様」


さっきとは打って変わって落ち着いた声で秋雨が有明を制止した。


「何だ、秋雨。お前までもが邪魔をするのか?私と同じ鬼のお前が」


「今殺してしまっては有明様の無念は晴れないのでは。牢に入れるのが最適でしょう」


「秋雨っ、貴様!」


水無月が叫ぶ。

露李にとって牢はトラウマでしかない。

あんな怖い思いをまた。

鋭い眼光が秋雨を射抜いたが、当人は微動だにしない。

有明は面白そうに水無月を見つめた。


「お前がそこに立ってどうするというのだ?─ほら、こんな風にすり抜けていくぞ」


有明の手が水無月の体を貫通し、露李の首をギリギリと締め上げる。


「っく、ううっ」


「露李っ、露李!このっ、やめろ、やめてくれ!!」


ひたすらに懇願する水無月を満足そうに見やってから手を離す。

そして従者たちをそれぞれ見回し、口を開いた。


「なぁ、お前たち。離れることは許さぬぞ──あの日の約束だ。露李、お前もな」


心なしか嬉しそうな有明に口をつぐんだ。


「秋雨、連れて行け」


「承知しました」


秋雨が音も立てずに動く。


「ダメだ露李!」


「黙れ水無月。有明様の御前だ。恩を忘れたとは言わせない」


今の身体では露李を守ることもできない。


「出でよ、雹雷鬼──」


「させぬ」


有明の呪が露李の体に巻き付いた。

足元に魔方陣を描き、鉄の檻が造られていく。


檻を出ようとしても力が出ない。


「露李ーっ!!」


「有明様っ、どうし─」


後頭部に衝撃が走り、露李は意識を失った。




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