【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
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目覚めると、真っ暗闇の中にいた。
最近になって意識を失いすぎではないだろうかと苦々しい面持ちになる。
「あっ、露李目が覚めた!」
隣で水無月の声がした。
「氷紀、あ、水無月さん。ここどこですか、真っ暗で、夜ですか」
さっきはまだ日が残っていたはずなのに。
そんなに眠っていたのだろうかと首を傾げる。
その暗い中でも、魂そのものの水無月は淡く光って見える。
水無月は困った顔をした。
口を小さく開け閉めさせ、言うべきかどうか迷っているようだ。
「有明様は、」
そう言いかけたとき、意識を失う前に見たものが映像のように頭に流れた。
『牢に入れるのが最適でしょう』
秋雨の声がガンガン響く。
「じゃあこれっ──」
ジャラ、と手首で音が鳴った。
水無月から発される光に照らされて──鎖が、手に巻き付いているのが見えた。
「地下牢…」
「露李、落ち着いて」
水無月が露李の目を見て言う。
血の臭い。
滴る温かい液体。すぐに塞がるはずの傷が、術で抉られていく感覚──。
「ああっ、ああ…」
息が荒くなる。頭の中がぐるぐる回る。
嫌だ、怖いよ、やめて。
「露李、ここは蔵じゃない!落ち着いて、息を吸って!」
言われるがままに深呼吸する。
「大丈夫?」
「はい─あ、うん」
少し落ち着いた所で、露李ははっとして水無月を見た。
「有明様は!?」
「…まだ行っていない」
「じゃあ止めないと、出ないと…!」
どうしたらこの鎖は外せるんだろう。
「無駄だよ。有明様、宵菊、睡蓮が術をかけた。星月夜の特技は力業だから入ってないけど、でも。不安定な露李の力で破れるかどうか」
悔しそうに水無月は鉄格子のある方を睨む。
「鎖を、外さずとも…!」
唐突にそう呟き、立ち上がる露李。
ガンっと鈍い音がする。
露李が鉄格子めがけて体当たりしたのだ。
「やめろ露李!!」
ふわりと金と銀の光が舞った。
「鬼の力をっ、使えばっ!!」
ガンッ、ガンッ、と体を打ちつける音が響く。
「無駄だ!!使えば使うほど、お前の力は吸収されるだけだ!!」
音がやんだ。
「何でっ…」
ぺたんと力が抜けたように座りこむ。
「誰も守れない!!結局傷つけて、その上…また!!」
聞いているだけで痛くなるような声だった。
ここに来たのも、守護者たちを死から遠ざけるため。
もう誰一人として自分のために失いたくなかった。
薄々気づいていた。
あの日氷紀が突然いなくなったのは、自分のせいではないのかと。
だから。
「露李…泣かないでよ。泣かないで、くれよ…」
ふわりと光に包まれた。
水無月が露李を抱き締めていた。
露李の体に触れられなくても、温もりを感じられなくても。
動作だけでも、少しでも安心させてやりたかった。
触れられないことが、守ってやれないことが。
こんなにも、苦しい。
傷ついてばかりのお姫様、頼ることを知らないお姫様─。
でも今の自分は『頼れ』なんて言えない。
目から勝手にほろほろと流れる涙に戸惑いながら、露李は嗚咽を噛み殺していた。
もうどうしたら良いか分からない。
何を信じて動けば良いか分からない。
泣いているばかりじゃダメだと思うのに、自分の力ではどうすることもできない。
弱くて、無力で。ただただ情けなかった。
何が風花姫よ。何が。
大切な人も守れない私は、何もすごくない。
皆が言う風花姫は私じゃない。
着物が濡れるのも構わず、これ以上涙を見せまいと目を覆った。
目覚めると、真っ暗闇の中にいた。
最近になって意識を失いすぎではないだろうかと苦々しい面持ちになる。
「あっ、露李目が覚めた!」
隣で水無月の声がした。
「氷紀、あ、水無月さん。ここどこですか、真っ暗で、夜ですか」
さっきはまだ日が残っていたはずなのに。
そんなに眠っていたのだろうかと首を傾げる。
その暗い中でも、魂そのものの水無月は淡く光って見える。
水無月は困った顔をした。
口を小さく開け閉めさせ、言うべきかどうか迷っているようだ。
「有明様は、」
そう言いかけたとき、意識を失う前に見たものが映像のように頭に流れた。
『牢に入れるのが最適でしょう』
秋雨の声がガンガン響く。
「じゃあこれっ──」
ジャラ、と手首で音が鳴った。
水無月から発される光に照らされて──鎖が、手に巻き付いているのが見えた。
「地下牢…」
「露李、落ち着いて」
水無月が露李の目を見て言う。
血の臭い。
滴る温かい液体。すぐに塞がるはずの傷が、術で抉られていく感覚──。
「ああっ、ああ…」
息が荒くなる。頭の中がぐるぐる回る。
嫌だ、怖いよ、やめて。
「露李、ここは蔵じゃない!落ち着いて、息を吸って!」
言われるがままに深呼吸する。
「大丈夫?」
「はい─あ、うん」
少し落ち着いた所で、露李ははっとして水無月を見た。
「有明様は!?」
「…まだ行っていない」
「じゃあ止めないと、出ないと…!」
どうしたらこの鎖は外せるんだろう。
「無駄だよ。有明様、宵菊、睡蓮が術をかけた。星月夜の特技は力業だから入ってないけど、でも。不安定な露李の力で破れるかどうか」
悔しそうに水無月は鉄格子のある方を睨む。
「鎖を、外さずとも…!」
唐突にそう呟き、立ち上がる露李。
ガンっと鈍い音がする。
露李が鉄格子めがけて体当たりしたのだ。
「やめろ露李!!」
ふわりと金と銀の光が舞った。
「鬼の力をっ、使えばっ!!」
ガンッ、ガンッ、と体を打ちつける音が響く。
「無駄だ!!使えば使うほど、お前の力は吸収されるだけだ!!」
音がやんだ。
「何でっ…」
ぺたんと力が抜けたように座りこむ。
「誰も守れない!!結局傷つけて、その上…また!!」
聞いているだけで痛くなるような声だった。
ここに来たのも、守護者たちを死から遠ざけるため。
もう誰一人として自分のために失いたくなかった。
薄々気づいていた。
あの日氷紀が突然いなくなったのは、自分のせいではないのかと。
だから。
「露李…泣かないでよ。泣かないで、くれよ…」
ふわりと光に包まれた。
水無月が露李を抱き締めていた。
露李の体に触れられなくても、温もりを感じられなくても。
動作だけでも、少しでも安心させてやりたかった。
触れられないことが、守ってやれないことが。
こんなにも、苦しい。
傷ついてばかりのお姫様、頼ることを知らないお姫様─。
でも今の自分は『頼れ』なんて言えない。
目から勝手にほろほろと流れる涙に戸惑いながら、露李は嗚咽を噛み殺していた。
もうどうしたら良いか分からない。
何を信じて動けば良いか分からない。
泣いているばかりじゃダメだと思うのに、自分の力ではどうすることもできない。
弱くて、無力で。ただただ情けなかった。
何が風花姫よ。何が。
大切な人も守れない私は、何もすごくない。
皆が言う風花姫は私じゃない。
着物が濡れるのも構わず、これ以上涙を見せまいと目を覆った。