【流れ修正しつつ更新】流れる華は雪のごとく
**

ビュンっと風を切る音が柔道場に響いた。

冬だというのに額に伝う汗を拭き、水無月は一息ついた。

頭をよぎるのは先程、来るなと釘を刺しておいた最愛の安否。

しかし彼女には水無月自らも認める守護者たちがいる。

これ以上一緒にいると過保護だとかえって露李に悪印象かもしれない。

 
「はぁ…」



──全く俺って意識されてないよね。
 

気に食わない案件は勿論それだった。


──いや、俺をそういう対象として意識するっていう概念がないのか。


どうしたものか。


きょとんとした露李の顔を思い浮かべ、苦笑い。

可愛らしいといえば可愛らしいが、ここまでくると寂しくなってくる。

そう考えたところで、ぴくりと肩が跳ねた。


「誰?」


妖気を感じ、扉に意識を向ける。

露李のように誰かまで探知するほどの力はもうない。


「よ」


見ると、同じように胴着を身につけた結が扉にもたれていた。


「風雅か…」


「何だよそのガッカリは!」


「露李以外が来ると大抵ガッカリしている。案ずるな、貴様だけではない」


相変わらずの露李バカ。


「貴様も剣をたしなむのか?」


「まーな。つかその貴様ってやめろよ」


「何と呼べと?」


「自分で考えろよな!俺には風雅 結様っつー華麗な名前があんだよ!」


「そうか。ああ、良いところに来た」 


水無月は栗色の髪をかきあげ、結の目を真っ直ぐ見た。


「どうしたー?」


素振りを始めようと構えたまま、その赤い瞳を見返す。


「露李は時々、物憂げな表情をする。やはり、それは黎明のことを思っているからなのだろうか」


「黎明?」
 

「ああ、何と言ったか…美喜のことだ」


「式神の友達のことか。まぁそうだろうな、露李は信頼してたみてーだし」


ブンッと腕を振る。

さすがの速さと力強さは、風の能力故か。

いや、努力とのどちらともか。

この動きでは相当な修行を積んできたはずだ。


結の動きには無駄がない。

内心、感心するが態度に出したりはしない。

それから。


「その反応、前々から気づいていたのか」


結たち守護者は、露李を助け出したあの日、美喜が式神として追っ手を食い止めると言っても動じなかった。


「気づいてたよ」


こちらを見た翡翠の目は、強い光を宿していた。


「あいつがだいぶ前に転校して来た時だなー、気づいたのは。俺達をナメてくれるなよ、あれは明らかに纏う力がちげーからな」


仮にも有明の魂の片割れだ。


そうか、と頷く。


「俺は友達というのは、よく分からない。家族も然りだ。だから露李の気持ちを全て理解することはできない。それでも俺はあの子が大切だ」


唐突な告白に、結は耳まで真っ赤になった。

< 211 / 636 >

この作品をシェア

pagetop